午前五時、まだ夜は明けていない。犬が急に吼え出した。「来たぞ。」全員が学校の運動場に集まった。自分達のような独り者、家族を連れたもの、それぞれが手を取り合って集まっている。第二部落全員が集まった。夜がしらじらと開けだした。集まってきた人達は、ほとんどが女、老人、子供達だ。肝腎の男たちは召集でいないのだ。この人達を守れるのは我々義勇隊員だけである。「みんな聞いてくれ。もうすぐ匪賊がまたやってくるが、なるべく静かにして彼らには絶対に抵抗しないように。」と部落長がいった。我々は女や子供達を中にして様子をうかがっていた。 しばらくしていると、西の方から異様な声を出しながら、明け方の道を一つの集団がこちらに向けて突進してくるのがみえた・・・と彼らは、手に手にクワや鎌などをさげ、大声をあげながらの襲撃である。銃は持っていない、匪賊ではない。近くの満人部落の暴民である。飛び道具がなければこちらも抵抗することもできる。「おーい、やるぞ。」誰かが叫んだ。闘う事ばかり訓練を受けてきたこのからだが燃えた。持っていた木刀を上段にかまえて、群れの中に突っ込んでいた。「ギャー。」目の前にいた満人が頭を抱えて後ろにのけぞった。隊員だけで暴民に抵抗している。死物狂いだ。 我々の抵抗に、彼らは退却を始めたのである。 ところが、彼らが引揚げていく方から急に銃声がなり出した。「匪賊だ、逃げろ。」西に東に、それぞれの方向に向かって皆が走り出した。私達五、六人の者は田んぼのあぜ道をつたって、東へ向かってはしった。しばらくいくと、東西にのびる本道にでた。 そこで十四、五人くらいの者と合流して東へ向けて逃げることにした。ところが近くで銃声がしている。匪賊が発砲しながら追ってくるのが見えた。みんながあわてて道ばたの黍畑へとびこんだ。 二メートルくらいに伸びた唐黍のなかはこのうえない隠れ場所だ。十町歩はあるくらいの畑である。これでやれやれ、まず胸を撫でおろした。 みなが一ヵ所に集まった。小さい子供をおった若い母親が居る。年配の女や男の老人も居る。義勇隊の仲間は不思議とほとんどが居る。ばらばらの行動になっていても、すぐに一つになれる。日頃の訓練がそうさすのかも知れない、と思った。 |
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