敗者の群像(その3)

依吉密開拓団では、第一部落、第二、第三部落と、三部落がそれぞれ一キロくらいはなれているものの、三部落に別れて配属された。私達十名余りの者は、第二部落に入り生活が始まったのである。

まず、まじかに迫っている越冬の準備である。北満の冬は早い。九月の上旬になると、もう朝は霜で真っ白くなる。古くなった空家をつくろって、なんとか冬越しができるように補修を始めた。

今日は井戸掘りである。六角に板を組んで掘り下げていく。裸足で土もつれになりながら、土を掘ってはバケツに入れて上に上げる作業だ。三メートルくらい掘ったところで、上に上げたバケツが下りてこない。「おーいどうした早くバケツを降ろさんか。」どうしたのか返事がない。「どうした。」ぶつぶついいながら、外にはい上がってみると四、五人いた友が一人もいない。当たりを捜しているうちに宿舎の方で銃声がなり出した。「匪賊だ。」近くの開拓団にひんぱんに出だしたと聞いてはいたが・・・とうとうきたか。緊張と恐怖とで、足元がガタガタ震え出した。急いでどろ足のまま靴を履きスコップをさげて宿舎の方へ走った。二百メートルくらい近づいたところ、ピュンピュン銃弾が頭の上をとんでくる。刈り取りの近づいた稲田の中に身を伏せては、はいながら前進する。

約三十分くらいたった頃、急に銃声が止み彼らは引揚げだした様子だ。馬にぶんどり品を乗せて引揚げていくのが稲穂ごしに見えたが、どうしようもない、完全武装解除で銃一丁刀一振り我々にはない。

宿舎に入ってみると、どうしたことだ、荷物一つない。全部略奪されている。これが着のみ着のままということであろう。匪賊のやりかたにむしょうに腹がたってくるが、我々は戦争に負けているのだ、あきらめるより仕方のないことである。

その夜は南京袋を被って寝た。夜は寒い、寒さのあまり一睡もせずに夜を明かした。

老齢の団員の話では、「匪賊は明日の朝、夜が明けるころ必ずもう一度やってくる、その時は全員学校の庭に集合するように・・・。」とのことである。

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