ニジェール河@

ニジェール河はアフリカでも有数の大河である。延長2800キロ、大西洋のすぐ近くギニア山地を水源に、サハラに向かってマリ国内を北東方向に進んだ後、トンブクトゥーの近辺の大湾曲部から今度は南東に向きをかえ、ニジェールの西端を流れてナイジェリアからギニア湾へと注ぐ。悠々たるものである。

ギニア山地は、ニジェール河、セネガル河、ガンビア河という、西アフリカにある3つの主要な河川の水源がほんの僅かな違いで接する、いわゆる分水嶺となっていて、年間平均4000ミリという降雨量の多大さからも「西アフリカのシャトードー(給水塔)」と呼ばれている。ニジェール河がいかに長いか、そのシャトードー(給水塔)から流れ出る水がいかに長い旅をするかは、流路全体のほぼ5分の3の位置にあるニジェールの首都、ニアメにおける流量変化を見ただけでも推測されるくらいである。

ニアメの雨は10月の初めには止まる。それより北の地方ではもっと早い時期に止む。したがって、これ以降、ニジェール河にマリやニジェールで降った雨が新たに流れ込む可能性はほとんどない。にもかかわらず、もはや雨は一切降らず、乾期のカラカラの日が続く中で、河の水位はドンドン上がり続けるのだ。雨が止むとほどなく水位が下がり始める、日本の短い川を見なれた私たちには、ニジェール河のニアメでの水量が、雨が止んで3ヶ月たった1月に最高になるというのが何とも不思議に思われる。

雨期にはそれが逆になる。雨がすでに何度か降って、大地はそこそこ水を含み、そこかしこで主食である穀物、ミレットの栽培が始まっても、それまでどんどん下がり続けてきた河の水位はさして変化を示さない。水源のギニア山地では5月、6月と降り続いて、7月、8月、9月の3ヶ月間が降雨量のピークになる。しかし、ニアメではまだこの時期のニジェール河の流量は多くはない。もう底は打ったかな、、、と、ぼちぼち増えて来はじめたかな、、、と、まだその程度の感じでしかない。給水塔から流れ出した雨水がニアメまで届くには、延々と3ヶ月、2000キロにも及ぶ長い長いドラマが待っているのである。

このニジェール河も、世界各地の乾燥地帯の河川の例にもれることなく、さまざまなストレスを受けている。灌漑開発による河川本流の水量低下は、マスコミでよく取り上げられる中央アジアのアラル海ほどではないにしろ、やがて大きな問題となりかねない。流れ込む土砂によって流路が浅くなって来たことを憂う声も聞こえてくる。川床に土砂が堆積してくれば、その分、川幅は広くなる。その結果、地中への浸透、蒸発ともに増えて流量は減少するし、両岸の農地の侵食も進む。富栄養化の問題も抜きにはできない。この問題は、ニアメ付近では、低水位期のホテイアオイの大繁殖による漁業や農業への影響となって既に現出している。

しかし、あれこれと、深刻に考えれば切りのない現実を抱えながらも、褐色の大地の中を緩やかに流れ下る大河には、それだけで心洗われるものがある。ニジェールの首都ニアメには、そのニジェール河畔に繋留された船のレストランやら、往来する小舟の姿をながめながら、川岸で、串焼肉やフライドポテトをつまみにして生ビールをいただけるお店がある。ニアメと対岸とを結ぶケネディー橋をみはるかす丘の上のホテルの庭でも、串焼肉とよく冷えたビールが待つ。

対岸の丘、椰子やユーカリの林と、季節によって沈み落ちる位置が変わる夕陽の姿を目で追いながら、大河のほとりにある幸せを噛みしめる。ゆったりと流れる時の幸福を、、、。

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