変な相談を受けたものである。おとなしい犬を、吠えて吠えて困るような、猛犬に仕立て上げる方法を知らないか、、、と。え、反対ではないの?しかし、一体どうしたんだい。
Zさんはニジェール国立技術職員養成学校の森林科を卒業した。しかし、折からの政治不安と財政的な逼迫のあおりをくらって、本採用の辞令がでないままに環境局の森林課へと「配属」された。当然のことながら、政府からの給料は正式採用でないために支給されない。私たちのプロジェクトから支払われる「手当て」だけで頑張っている。
その彼が結婚した。花嫁はニアメ大学医学部の女学生。何とも不思議に思うのだが、こういう取り合わせはよくある。さて、結婚したその矢先に、泥棒に入られた。それも立て続けに2回。一回目はテレビ、二回目は結婚祝いにいただいた家具類。奥の寝室で眠っていた二人がまったく気づかない間に、すぐ隣室の居間でやられた。そのダメージもさることながら、怯えきった花嫁が不憫でならない。何とかしなくてはだめだ。
そこでガルディアン(夜警)を雇った。昼間は近くの道端でたばこの屋台を広げている男が、私にお任せください、、、と、黒皮の鞘に入った刀を持って現れた。夜中にZさんが庭に出てみた。夕方の大言壮語とは裏腹、みごとにその男は眠っていた。刀をそっと取って隠した。小石を投げてあてて起こした。後は、黒澤明の「七人の侍」の菊千代と勘兵衛のかけあいと同じである。もしも、自分が賊だったらお前の命はないところだ。早速にクビにした。昼間働いたその上に、夜までもというのがそもそも間違いだったのだ。
友だちが犬を飼えと連れてきた。人間よりも犬の方が信頼できる。ところがこれが一向に吠えない。誰をみても尻尾を振ってじゃれついていく。教えてくれる人があった。言われたとおりに、呑み助の友人に少しだけ分けてもらって、ウイスキーを飲ませた。これで態度が豹変して、この犬も吠え付く噛み付く、立派に酒乱になるはずだ、、、った。しかし、結果は大違い。完全に腰がぬけて、ぐるぐるぐるぐる、前足だけで回りくるっただけだった。そうして余計無口になってしまった。
日本人のあなたなら、犬をメシャン(意地悪という意味のフランス語)にする方法を知っているのでは、、、とはまた、見込まれたものである。自分には犬のことなど見当もつかないが、実はよい方法がある、良い道具があるのだ、、、と赤外線センサーの話をした。
ホテルに移るまでの3年間、私も家にガルディアンを雇っていた。このような国で生活するためには、外国人であるとないとにかかわらず、必要なことである。その上に、私は日本から小型の警報機を持参していた。センサーが作動して、人で鳴る、風で鳴る、朝日で鳴る、家の中で鳴らしまくった。それがホテルに移って不要になっていたのである。
Zさんの家まで行った。壁の適当な場所に取り付け、暗証番号でつけたり切ったりするやり方を教えた。室内を人が動けば、その熱変化を感知して鳴る。鳴ったら誰かが来た証拠だ。友だちや親戚や近所の人や、誰でもかれでも、とにかくみんなにこのセンサーを鳴らしてみせろ。決して、こっそり仕かけて侵入者を捕まえようなどとはするな、、、と教えた。あいつのところにはあんな道具がある、めったに侵入できないと思い込ませたら勝ちだ。
犬がどうなったかは知らない。ひょっとして、便利な道具ではなしに、全方位平和外交の彼を、誰かれかまわず吠えかかるメシャンに変える方法を、伝授すべきだったろうか。
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