あるおっさんF

こんな仕事だからな、女にはもてるぜ。女のほうも、俺たちと知り合ったら、並みの男が間抜けに見えて、物足りなくなってしまうんだろうよ。

通りかかったカール(長距離の小型バス)の運転手に、俺が今日はここの検問所で張っているからと、どこそこのどの娘に伝えてくれと頼むのさ。そうするといちいち迎えになんか行かなくても、向こうから会いにくる。早速、近くの藪か畑というわけさ。

一度なんか、その薮でな、何となく誰かに見られている感じで、変な感じがしたもんだから、ひょいっと顔を上げたんだ。そうしたら目が合った。俺の目に飛び込む、目と鼻の先に目が有った。相手が首を持ち上げてな、見ているんだ、この俺を、、、。あの時はあわてた。息も命も縮む思いってのはあのことさ。間髪をいれず女から飛びのいた。そうして、逃げた。

しばらくして、女が俺の上着やら帽子やらを下げて、茂みから出てきた。どうしたんだと聞くからわけを話してやった。実は、あの最中に、すぐ目の前、女の頭に触るくらいな先のところに、真っ黒いやつがいた。鎌首を持ち上げて、今にもとびかかろうとまっ平らになって、、、。そいつと顔があったのさ。コブラがそこに、すぐそばにいたんだ。

それ以来、あの女とは切れた。コブラが頭のそばにいた、いつ噛まれても不思議のないそばにいた、それなのに、何も言わずにほったらかしにして逃げた、ひどい男だ、と、それだけなら許せる。ヒャーヒャー小娘みたいに悲鳴を上げて、藪の中をバシャバシャ言わせて走って逃げた、、、と、人を散々小ばかにしながら悪態をつかれるのに、俺もほとほと嫌気がさしたのさ。最近、誰かと結婚したらしい。トロディーの市場で雑貨を売っていた女さ。

商売人連中は俺たち以上の悪だ。放っておいたらやりたい放題、金もうけのためならどんなことでも平気でする。俺たちがやってることなど、知れたもんさ。

車を止めたら、何か、めんどくさそうにな、いかにも大物でございってな顔をして、ちょっとだけすかした窓から書類をさしだす奴だとか、自分は誰それの知り合いだと、政府やら軍やらの大物の名前をちらつかせて、検問なんか関係ないてな顔をする奴だとか、色々な奴がいる。俺はそんな大物ぶった連中が大好きだ。

へえへえ、大物でござんすかい、へえへえ、軍のお偉いさんの、へえへえ、なるほど、なるほど、あなたは大物、分かりました。しかし、それはそれ、これはこれ。私の仕事には一切関係ありません。言われたとおり、荷物を全部ここに並べてお見せ願いましょうかね、、、とな。偉いさんの知り合いなんて言い出す奴は、俺は絶対に許さねえ。黙って出しさえすれば、書類に挟んで、500でも1000でも、200でもいいんだ、自分の身の丈に合わせた目こぼし料さえ払ってくれれば、俺たちだって無茶は言わない。みんなそれぞれの身の丈に合わせて生きてるんだ。それが分からないほどの野暮じゃない。

偉いさんの影をちらつかせさえすれば、俺たちが黙ると思ったら大間違いだ。少なくともこの俺にはそんな手は通らない、、、と、いつになく気色ばむMには、ひょっとすると、内心、自分が憲兵隊の司令官の弟で、兄の七光りだと言わせたくない、そんな思いがあるのかな、、、とも思った。しかし、いくら私でも、彼にそこまでは言えない。

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