あるおっさんC

「デモクラシー(民主主義、民主制)か。ごらんのとおりだ。フランスの右派連中の言うとおり、アフリカにデモクラシーはまだ早すぎるってことさ。花畑を独り占めしていた奴を追いやった後で、みんなが公平に配当にありつこうと目を光らせているうちはまだましだが、自分のものにはなりそうもないとなった時が問題だ。どうせ自分の家に飾れないのなら、誰のものにもできないようにと、根っこごと花の苗を引き抜きはじめる。そうすれば誰も花を飾ることはできない、それで公平、平等というわけさ。」

「それがデモクラシーだよ。政党の連中がやっていたデモクラシーは、そんなところだ。クーデターの前の状態を思い出してみろ。党利党略、手前勝手なことばっかり言い立てて、一切何も動かなかった。この国に限らないアフリカのデモクラシーの現実だよ。」

「クンチェ(故軍人大統領)の時代は、そりゃあ確かに厳しかったよ。独裁ってやつだ。何もかも一手に握って、そりゃあ厳しいものだった。みんなピリピリしていたよ。しかし彼は、自分にも厳しかった。それに何より気前がよかった。一度握りはするけれども、気前よくばら撒きもした。だからみんながついて来たんだ。わいわい言うだけ言い散らかして、足の引っ張りあいしかしないデモクラシーより、あの方がはるかにましだ。この国の現実にあっているというもんだ。」

「これからいつまでB将軍の天下が続くか、それは彼の気前次第だ。どれだけ気前よく播くかだ。握らなけりゃあ播くこともできない。播くことができなくなったらおしまいだ。だから、彼も握りにかかる。それでいいのさ。デモクラシーより、気前のいい軍政の方がこの国には合っている。好き勝手言わせておいたらあのざまだもんな。」

「人権? 何だそりゃあ。それが一体何だってんだ。言葉も何もまったく通じない連中が、よその国からなだれ込んで来て、ばたばた人が打ち殺され、女たちは女たちで片っ端から、、、なんてことになった時に、人権が何処かにあるとでもいうのか。国を追われて、着の身着のまま逃げ惑わなくてはならなくなった時に、人権が一体なんになる。そうならないように国民を守っているのは一体誰だと思ってるんだ。尻の一つや二つ蹴り飛ばされたからといって、いちいち文句を言うなってんだ。」

「あんたは俺たちがよほどの悪だと思っているかも知れないが、この国に限らず、アフリカ中のどこだって同じだぞ。みんなそれぞれ、身の丈に合わせて、手に入れられるものを入れてるんだ。脅せる立場にある奴は脅す。威張れる立場に居る奴は威張る。それの何処が悪い。ライオンは強く非情だからこそ恐れられるし尊敬される。ライオンが猫になってじゃれたところで、誰もが不気味に思いこそすれ、愛したりなどするもんか。」

「日本では、警官に目こぼし料を払ったりする者はいないよ。そんなことをしようとしたら反対に罰せられるし、警官も受け取ったことがわかれば厳罰に処せられる。」

「ふーん、それは何とも不思議な話だ。袖の下の何処に証拠が残ってるんだ。俺にはわけが分からない。ひょっとして、日本の警察ってのはよっぽどの間抜けなのか。その程度の算段さえつかないくらいにな。そうではない? ふーん。だとすれば、よっぽど給料がいいんだな。不正なんか働かなくてもいいくらいにな。それ以外には考えられないな。」

何を言っても通じない相手というのは居る。

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