ムッシュー・ヤマトが最近、毎週、憲兵隊のMと会っているという話は、ホテルの関係者だけではなしに、JICA(現:国際協力機構)のニジェール事務所の現地雇員の間にまで、あっという間に伝わるところとなっていた。心配して何人もが声をかけてくれたのである。そうして、Mに関して、いくつかの情報が私のもとに寄せられた。
彼の兄は、この1月のクーデターによって政権を奪い取ったB将軍(後に大統領、、、99年に暗殺される)の盟友で、ナンバー2の地位にある憲兵隊の司令官であるということ。ある重大な失敗をやらかして、本来ならば現職から追放されてしかるべきところを、兄のおかげで謹慎ですんでいること。まず札付きと言って間違いのない悪であること、、、等々、好奇心の方につくか、敬して遠する方につくか、いささか迷わないではいられないような内容の情報ばかりが伝えられた。しかし、私は彼らの親切心には感謝しながらも、一切の忠告を聞き流すほうを選んだ。まさか私に危険が迫るそんな話はないだろう、、、と。
実際、彼から聞く話はものすごいものだった。
国内各都市すべての主要道路の出入り口で、憲兵は麻薬や武器など違法な物品の流入をチェックする。それは別段、国内旅行などという大げさなことをしなくても、住んでいる町の外れまで出かけてみるとすぐ分かる。憲兵、警官、森林官の3種の検問所があって、それぞれに通過する人と荷物の検査を行い、場合によっては没収や逮捕などの強権を発動する。これが憲兵隊員たちの最大の金づるになっていると言うのである。
ややこしい、こうるさい、色の白い外国人の車は別だ。それ以外、通りかかった車という車、片っ端から嫌がらせをする。特に商売人の車を重点的にねらう。これから不法な荷物がないか検査をするので、積荷を全部荷台からおろして道路に並べろと言うのだ。
そう言われた車の主はたまらない。満載した荷物をおろしてまた積む、、、そんなことをしていたらどれだけ時間がつぶれるか。到底できない相談だ。だから、目こぼし料を払う。払わなければ何一つ怪しいものが出なくても、荷物を道路に並べさせる。一日に通過する車の量は想像がつくだろう。その金の半分を現場の担当同士でポケットに入れて、半分を上役にわたす。上役は上役で、管轄下にあるいくつもの検問所からの上がりの半分をはねて、残りは上。その上はまたその上。国中では想像もつかない膨大な額になる。
だから、検問所に俺も早く復帰したい。ちょっとしたへまがもとで、事務職に回された。その関係で今は不自由しているが、復帰すれば給料の何倍もの稼ぎになる。実際、以前は、女房に生活費などいちいち数えず、札の束で渡していた。それもまもなくの話だ。
憲兵は道端の木の下に大型バイク2台でいる。通常、2人体制だ。それが一人しか見えない時がある。そんな時は、まず間違いなく近くの畑か藪の中で、おとりこみの最中だ、、、と、これ以上書くことが憚られる話まで、Mはにこりともせず、する。
ある女を見初めた。第二夫人にもらいに行った。父親にけんもほろろに拒否された。手広く商売を営んでいた男だ。検問所でその父親の車を停めた。用意してあった麻薬の袋を座席の下に放り込んだ。隠してあったと摘発した。有無は一切言わせない。ぶん殴って逮捕した。そうして3年ぶちこんだ。たかが娘一人のために、あの野郎はこれからの人生を棒に振る。人権意識のかけらもない深い闇のような話。付き合ってみることにした。
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