何かが違う

銀の雨降るこの街に今夜最後の雨が降る
駅に来るなとしかったに白いあの娘のかさが来る・・・・。
白いかさ。まさにこの歌のようだった。

それは三学期も終ろうとしていたある日、外は冷たい雨が降っていた。彼がどこかへ行ってしまうことなど知る余地もなく、私はいつものようにはしゃいでいた。彼の足元には、ハードケースに入ったギターと大きな布袋があった。そして、彼は大きなサングラスをしていた。その時の彼の気持ちを、私は知ることができなかった。

私達はしばらく、友達の下宿でいろいろなことを話した。彼は、いつものように言葉少なげだったが、私はやり場のない気持ちを見逃さなかった。彼は言い出せないまま、何度も時計を見ていた。

この時、私はいつもと違う彼を見た。大きな袋とギター・・・。私は、当たりかまわず泣き叫んだ。彼は、今夜の最終で大阪へ行くと言う。学校をやめたことは知っていたが、まさか、家を出ることなど想像もできなかった。「私もいっしょに行きたい。」と頼んだが、彼の返事はなかった。

発車五分前のアナウンスがあり、列車は静かにうなり声を上げた。彼は、「君はがんばるんだ。」と言って、時計をはずした。私は彼の腕時計を握りしめ、いつまでも・・・。

彼には社会人としてのスタートが待っていたが、彼も先輩もいなくなったことで、毎日が脱け殻のようだった。私は自分自身がどうすればよいのか分からず、学校に行ってもただその時がすぎた。誰に相談することもできず、私はギターや遊びごとに走った。

3年生になるとマージャンやパチンコをしたり、ギターや音楽にはまった。その時から、2年後輩の女の子と行動を共にするようになった。彼女は工業高校だったが、ギターが好きでやけに気が合った。お互いの誕生日ともなれば、カバンの中にはボトルが隠れていた。

彼女はそんな時、いつも友達を誘っていた。彼等は、ほとんど同じ学校の先輩だった。私はいつの間にか、彼達とも時間を共にするようになった。

彼がいなくなったことを忘れるために、私は自分自身を追い込んだ。そこには今までとは全くちがう世界があった。私は、全てのことにすぐのめり込んだ。

反面、学校ではまじめな生徒像に変わっていた。そして、自分自身も現実から逃げた。それでも、同和問題研究部だけは、自分なりに一生懸命にとりくんだ。先輩の残してくれたことを無駄にはできないし、何かの答えがそこにあるような気がしていた。私は部長として、いろいろな集会や勉強会を開催した。

3年生になると成績は元どおりになり、教師達は私の態度に安心していた。そして、自分自身も静かでいる教師の方が楽だった。中には、「お前、えらい変わったなあ。」と言う教師も出てきた。

3年生の夏休みともなれば、私は七面鳥のように姿を変えた。昼間はまじめな高校生としてアルバイトをし、夜になるとギターや酒のビンを傾けた。そこは全てが満ちたりているようだったが、なぜか心を開くことができなかった。私はいつも自分の中で、{何かがちがう・・・。}

私がそこで知ったものは、マージャン・パチンコ、そして、酒やタバコにエトセトラ・・・。その上、ロックバンドにライダースーツ。それら全てに、私は満足することができなかった。

2学期も終ったクリスマス、私は先輩の家で彼の姿を見た。久しぶりに会った彼は、やけに遠い人のように思えた。それは、私自身の今日までの生き方全てを彼に見抜かれているようで・・・。そんな彼に何も言うことができず、私はただうつむいた。それでも彼は、「おい、元気か。」と肩をたたいた。私は顔を上げることができなかった。そしてその後、先輩に何時間も説教を受けた。最後に、「あんまり心配かけるなや。」と笑った。彼や先輩に会えて、自分の中で今までのことがうそのように・・・。そして、次第に心が落ちついてくるのを感じた。

さまざまなことがあった高校時代だったが、私は自分自身に悔いはない。そしてこれからも、きっと、ぶきように生きて行くんだろうな。と・・・・・。

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