アイメイト バーベリーとの出会い
(2)鶴の一声!

今日は、再訓練の日だ。私は、バーベリーの排泄とブラッシングをすませ、外に出て指導員を待った。「わざわざ、遠くまで出向いていただき申しわけありません。」「山戸さん、首輪のかけ方がちがいますよ。」「エッ、首がしまると思って・・・・。」「チョークをした際、瞬間的に首が締まるようにしているんです」と、あいさつがわりに、はやくも注意された。私は、自分のおろかさがおかしかった。「この首輪のかけ方だから、コントロールができなくなったんでしょうか?」 指導員は、バーベリーを見回し「それだけではありませんね。 ちょっと見た感じでは、ご主人も犬には慣れているようで・・・。」指導員は言葉を濁していたが、ようするに「どっちが主人なのか解らない」と言いたかったのだ。「それにしても、えれえ田舎だなあ。山戸さん、しっかりしないとこの辺は難しいですよ。ここに来る途中、汽車から外を見ていたら、ますます山の中に入り、終着駅にホテルガ本当にあるのかと心配していました。ところが、中村駅に着いてみると、結構にぎやかだったので安心しました。それにしても、遠いですねえ。」指導員は、田舎が珍しかったのか? 見回しているようだった。 「ここは、高知県と言っても一番西で、隣の愛媛県までは10キロくらいです。」「山戸さんを見ているときには、こんなに田舎にすんでいるとは思いませんでした。」「合同訓練の時には、若い子について行くのが精いっぱいでした。 その後、みなさんはどうですか?」 私は、同期生の状態は知っていたが一応聞いた。 「すると、指導員は「頑張って活躍していますよ」と言った。それ以外に、答えようがない。 「それでは、まず、状態を見せてもらいます。どこでもかまいませんから、いつものように歩いてみてください。」私達は、いつもの散歩コースを歩いた。再訓練には、隣保館の職員の「野口さん」と家族のものが参加してくれた。野口さん達は、その場で待っていたところ、指導員が手招きし、バーベリーの後を大の大人がぞろぞろついて歩いた。すれちがう人にとっては、何となく異様な光景だ。 この時は、2・3キロメートルくらい歩いた。「一応、注意して見てみましたが、やっぱり、わがままがだいぶん出ています。それと、もう少しゆっくり歩いてはどうですか?景色も楽しんでくださいよ。」今まで、景色を楽しむことなど考えもつかなかった。ただ、目的地に着くことが精いっぱいで・・・。 私は、”そうか、景色をねえ・・・’と、心の中でつぶやいた。 「それでは、ちょっとバーベリーを借ります。」と言って、指導員はおくの道の方へ歩いて行った。私達は、心配のあまり聞き耳を立てた。 すると、バーベリーの「キャン・キャン!」と言う泣き声が聞こえてきた。「えらいたたかれよるがぜねえ。」・「むごいことよ。」・「あんな泣き声は、はじめて聞いた。」・「何か、むちのようなものでしばかれよるがじゃないかい?」などと話しながらまった。その時、私は”かわいそうだが、他に方法はないんだ’と、自分に言い聞かせた。バーベリー達は、40分くらいで帰ってきた。「これで良くなると思います。 もし、またわがままが出たときにはきつく叱ってください。かわいそうなと思い、叱るのをおこたれば同じことのくり返しになります。何度もだらだらと叱るのは、アイメイトにとってもかわいそうなことです。 指示は、一度で従わせるようにしてください。 2回目は、チョークです。」バーベリーは、何となく、からだがこわばっていた。その後、服従訓練を何度かしたが、昨日までとは見違えるほどきちんとしていた。「すごい、背筋までぴーんと伸ばしちょうぜ」と、野口さんは驚いていた。私も、”さすが、鶴の一声はちがうなあ’と、尊敬した。 ”バーベリー、やればできるじゃないか’ 「午前中の訓練はこれまでにしましょう。この辺に、どこか食事をするところがありますか?」・「国道に出たところにあります。」 私達は、昼食をとるために車で出かけた。「何度も言いますが、山戸さん、しっかりしないとこの辺の道は難しいですよ。」 私は、今になって”東京の方が、ずっと歩きやすいなあ’と思った。

「隣の芝生は青かった!」と言う例えがあるが、本当にそのとうりだなあと実感した。バーベリーは、車内でも身動きひとつせず、水をうったように静かだった。私達は、バーベリーと一緒に、ネスト覧に入った。食事中も、テーブルのしたできちんとふせていた。 食事も終わり、家に帰ってきたときは2時を過ぎていた。 「それでは、もう一度服従訓練をしてみてください。」私達は、家の回りを歩いたり、いろいろな指示を出して従わせた。本当に、バーベリーは、見違えるほどきちんとしていた。 「大丈夫みたいですね。 この状態がいつまでも続くものではありません。これからは、主人のコントロールひとつです。だらだらと叱るのではなく、一度で従わせてください。歩く距離のことは気にしないで、基本を守り頑張ってください。」「ありがとうございました。 」・「4時の切符を買っていますので、これで失礼します。また、なにかあれば協会の方へ連絡してください。」 「本当に、わざわざ出向いていただきありがとうございました。協会のみなさんにも、よろしくお伝えください。」  指導員が帰った後、隣保館の野口さんと、「専門家はちがうねえ・背筋までぴいーんと伸ばしちょったぜ・けど、あの叱り方はかわいそうやったねえ・・・」などと、感想を話した。 しばらくすると、駅まで送っていた家族のものが帰ってきて、「なし、あれほど遠くまで歩くがぞ。」と言った。最近は運動不足で、久しぶりに長い距離を歩かされ、足腰にこたえているようだ。 私は、この頃では、1時間程度の歩行は大したことではなかった。毎日歩いているせいで、自然に鍛えられていた。 ”よし、明日からは初心に帰り再スタートだ。’と、自分に気合いをかけた。

戻る 次へ メニューへ トップへ