アイメイト バーベリーとの出会い
(20)おめでとう!

合同訓練も、あとわずか。シャンプーをすませて、いよいよ銀座へ!!。「今日は、午前中にシャンプーをすませ、午後から、銀座へ出る予定です。」と聞かされたが、あいにくの天気に、少しがっかりした。 銀座でも、テストがあるはずだが、まだ発表はない。

私達は、グランドに出て、ブラシを丁寧にかけ、一人ひとり、シャンプーの仕方を習った。しゃんプーの際のバスタブは、とても工夫されており、立ったまま簡単にできるようになっている。午前中いっぱいは、4頭のアイメイトのシャンプーに時間をとられ、銀座へは、午後からになった。 「ワンツーと、服従訓練をすませて、玄関で待っていて下さい。」私達は、「トレーナーをきがえて、少し、オシャレをしようか?」などと話していたが、実際のところは、誰も、特別めかし込んだ者はいなかった。銀座に出掛ける際には、それぞれ、指導員が一人ずつつきそった。 訓練生と、アイメイトが、一斉にくり出すことはなかなか大変で、準備にも、結構時間をとられた。

さあ、いよいよ、出発進行!!。 吉祥寺駅までは、2代の車で行った。私には、クラスの指導員の中橋さんがついた。理由は簡単。 私が、一番心配だったからだ。駅の中は、いつものようにざわついていた。数台電車を見送り、やっと、私達は乗り込んだ。少し、世間話をしていたら、あっというまに到着した。電車からおり、私達は、駅前周辺を、指導員について歩いた。いろいろな説明を聞いたが、テストコースのことが気になり、どこを歩いたのか?ほとんど覚えていない。

「ここが、銀座通りです。 少し、歩いてみましょう。」私達は、4頭のアイメイトを連ねて、風を切って歩いた。通行人が、足を止めてふり向くのが解る。”バーベリー、お前、どうどうとしてるじゃないか。’私は、バーベリーの、ゆうゆうとした姿が目に浮かび、とてもほこらしかった。バーベリーは、銀座では、常に先頭をきって歩いた。”バーベリー、テストの時にも、この調子で頼んだぞ。’

「それでは、銀座コースの発表をします。」一度も歩いたことのないコースを、一回の説明で、目的地に着かなければならない。私は、説明を聞きながら、ハーネスを握る手に力がはいった。

「みなさん、解りましたか? 20分間隔で出発します。」 コースそのものはむずかしくはないが、交差点の幅と交通量が心配。「それでは出発して下さい。バーベリーもどうどうとしていますから、コースをまちがわなければ大丈夫です。まちがえたときには、帰ってきてやり直せばいいんですから・・・・。普段どうり、胸を張って歩いて下さい。ゴール地点で待っています。」

”よし、一発で合格してやる!!。’「バーベリー、GO。」 銀座の歩道は、思っていたよりずっと広いが、交差点の段差も解りやすいし、信号も人についてわたれば大丈夫。”バーベリー、次の交差点が難問だ。 お前に、すべてを任したぞ。’この交差点は、折り返し地点になっており、一番長い横断歩道がついている。交差点の幅は解らないが、片側6車線はありそうだ。その距離の2倍の横断歩道をわたるのかと思えば、やっぱり恐い。私は、様子をみようと止まっていたら、初老の女性が声をかけてきた。 「この交差点は、とても広いから、あなた一人では危険です。私が、いっしょにわたってあげましょう。」 まさに、わたりに船だったが、そんなに、世の中あまくはない。 「ありがとうございます。 今は、試験中ですから・・・。」 「まあ、よりによってこんな危険なところで・・・。」と、あきれていた。

”バーベリー、大丈夫か?次の信号でかけ抜けるからな’ 目の前を、ボリューム全開の宣伝カーは、ひっきりなしに通り、スポーツカーの若者が、指笛を鳴らし、私達をからかって通り過ぎる。 ”ここまで来て、からかわれてたまるもんか。よし、わたってやる。’ 私は、ハーネスをにぎりなおし、「ストレート。」と、命令した。「バーベリー、よしよし。その調子・その調子。急げ、ほらほら、もうちょっと・もうちょっと!!。」バーベリーは、どうどうと、迷うことなく一気にわたり終えた。その時、”これからは、いつでも、彼女がそばにいるんだなあ’と、感動した。 私は、卒業の事を想像しながら、ゴールめざして歩き続けた。

何カ所か信号をわたったのだが、いっこうに、ゴールが解らない。 ”おかしいなあ?もうそろそろだけど・・・。’そのまま、しばらく歩いていたら、目の前を、一台の車が通り過ぎた。私達は、気がつかないうちに、地下道の入り口まで来ていた。”あわてることはない。 来た未知を引き返せばすむことだ。 ’おちついて考えれば解ることだが、思った以上に緊張していたのか?人の数がめっきり減っていることに気がつかなかった。「バック。」で、私達はひき返した。知らず・しらずのうちに、何百メートルも通り過ぎていたが、不思議と、緊張感はとれていた。

「おめでとうございます!!。」と、みんなの歓迎を受けたが、 本で読んでいたような感動はなかった。 どんな気持ちだったのか? 今でも解らない。「山戸さん、立派でしたよ。 バーベリーも、ほこらしげに誘導していました。」と、中橋さんは満足していた。 私は、その時、”これで、少し恩返しができたなあ。’と思った。 銀座に出るまでは、本当に「優秀な生徒ではなかった。」と思っていたが、このコースで、卒業できることを実感した。テストは、クラス全員が合格し、私達は、卒業試験のあとには、必ず入ると言う、インド料理店で食事をした。 インド人のマスターも慣れたもので、楽しいひとときを過ごした。アルコールも少し入り、ウイ巣きーゃ紅茶などみあげを買い、ほんわか気分で帰ってきた。さあ、明日は、いよいよ卒業式?。

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