アイメイト バーベリーとの出会い
(16)バーベリーは電車が大好き

少しずつ、回りの景色にも気をつけることが出来るようになり、歩くことの楽しさが感じられるようになってきた。

「明日からは、乗り物の訓練に入ります。」「バスですか?電車ですか?」「駅までは、協会の車で行き、吉祥寺駅からは電車に乗り、帰りは、駅からバスに乗り協会まで帰ってきます。」私は、テーブルの上に指で地図を書き、頭の中で納得した。沖縄の彼は、アイメイトをなでながら「いいね・いいね!」と、はしゃいでいた。

「何回も言いますが、このクラスは、本当に仲が良くて楽ですネー。長い間この仕事をしていると、いろいろなことがあり、どうしたものか?と、思うことも少なくありません。それにしても、最近は、パソコンの話が多くなりましたね。少し前までは、無線の話が大半をしめていましたが、このクラスも、パソコンの話ばかりですネー。みなさん、パ゛ソコンノ話が分かり安心しました。中には話についていけず、自分のからに閉じこもってしまう生徒もいました。山戸さんも、年齢を感じさせないほど、パソコンの事が詳しいですネー。」パソコンに、年齢はないと思ったが、悪い気はしない。

「さあ、行きましょう。ワンツーをすませて、玄関で待っていて下さい。」私達は、車に乗って出発した。「ここがどこか解りますか?よく音を聞いて下さい。」私は、駅の近くということは解ったが、性格には解らなかった。 「最初のコーナーを左に折れ、商店街に入り右に折れて、突き当たりが吉祥寺駅です。」私は、やっと自分のいる場所が解った。駅の中は、大ぜいの人でにぎわっていた。「ライトドアー!」の指示で、駅の中へ入った。バーベリーは、少し亢奮しているようで、通行人について歩いていた。「駅や建物の中などでは、一定の流れがあります。人の流れにも気をつけて下さい。」駅など、特に目的が決まっている場合は、人の流れについて行く方が間違いが少ない。中橋さんは、駅の中を説明しながら、「もう少しで切符売り場です。券売機の音が聞こえてきたら、切符の指示を出して下さい。」

駅に入ってしばらく歩くと、カチャカチャ!と言う、券売機の音が聞こえてきた。私は、「切符・切符」と、指示した。すると、バーベリーは、券売機の所まではスムーズに連れて行ってくれたが、とても混雑しており、なかなか買うことが出来なかった。「叱って下さい。」どうしたのか?と思えば、前の人のにおいをかいでいた。

「人の流れに気をつけて、改札の指示を出して下さい。」「バーベリー、改札・改札!」と指示を出した。とたん!!バーベリーは、鼻の先を、投入口にくっつけた。「よく、ほめて下さい。」私は、”さすが、盲導犬!’と感心した。今回は上手くいったが、まだまだ、すべてが完璧と言うわ゛けに派いかない。駅の中を、説明を聞きながら歩き、電車のホームに着いた。バーベリーは、乗り物が好きなのか?電車が入ってくる度に、きょろきょろ!して、なんとなく落ちつかなかった。

「次に、入ってきたら乗ります。」「ライトドアー」で、私達は乗り込んだ。乗り物に乗るときには、すべて、「ライトドアー」の指示を出す。この事の利点は、主人は、つねにアイメイトの右側におり、主人が、先に乗り込むことが出来ないようになっている。駅のホームなどでは、この事が、特に重要になってくる。アイメイトが、常に半歩前に出ており、ホーム出、足をふみはずす事がない。

「チェアー」バーベリーは少し歩いて、空席を捜し教えてくれた。「電車などの、乗り物の中では、お客様の方にも充分気をつけて下さい。」バーベリーは、ときどき頭を上げて、車内を見回していた。

「隣の人は、着物ですので注意をしていて下さい。」車内は、思っていたよりすいており、中橋さんは、車内から見える景色を説明してくれた。

あっと!いうまに、目的地に着いた。この駅は、始発駅になっており、落ち着いて訓練が出来るように考えられている。「帰りは、バスで帰ります。」電車をおりて、バーベリーが少し亢奮していたので、ホームの中の歩き方などを何度か練習した。「バスが来ても、指示を出す前に動いたりしたらしかって下さい。」”初めてバスに乗ったにしては、なかなか上出来!’と、満足した。アイメイト協会前でおり、午前の訓練は終了した。

初めてのコースは、必ず一人ひとり出かけるため、後の者はブラシをかけたり、ペアーヲくんで歩くときには、他の指導員がついてくれ、あの交差点ばかりの、だらだらと長いコースを歩いた。その日の乗り物の訓練は、一度にいろいろな経験が出来るようになっているが、ふみ切りコースのように、恐怖でいっぱい!と言うことはない。

夜のミーティングでも、さほど話題にもならなかった。果たして、人並みに卒業出来るのか?長かったような訓練も、終盤に入った。私達は、はやく帰りたい気持ちと、果たして、順調に卒業出来るだろうか?など、複雑な気持ちになってきた。

乗り物の訓練と併用して、デパートなどでの、買い物や、エレベーター・エスカレーターの訓練もした。買い物の際には、アイメイトをふせさせ、引き綱をしっかりとふんでおくことが基本になっている。エスカレーターの乗り降りは、階段とは違い、主人が状況に応じて判断し、タイミンクをつかまなければならないため、最初は、エスカレーターに乗るタイミングがつかめずおろおろした。

何度かくり返しているうちに、最上階まで上がっていた。エレベーターで下りるのかと思えば、「階段を使って、一気に、駆け降りて下さい!」などと言うではありませんか。”これは、調子にのりすぎやられたなあ’と思ったが、あとの祭り。私は、膝をガクガクさせながら、やっとの思いで1階まで降りた。”よくすりゃ損する!’まさに、この事だと思った。

デパートで、バーベリーの、レインコートを注文した。注文したのはいいのだが、あとでれだんを聞いて驚いた。腹巻きに手足を入れるところと、フードがついているような物が、何と!「12800円」と言うではありませんか。”それにしても、ペット用品は高いなあ’と思った。

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