アイメイト バーベリーとの出会い
(15)ワンツウ寺が吉祥寺?

「それでは、次のコースを説明します。今度のコースは、今までと同じように13本めまで行き、目の前の交差点をわたり、吉祥寺駅周辺を歩きます。」私達は、うきうきしながら「ウン・うん!」とうなずきながら聞いた。「明日からは、少し気分的にらくになりますよ。駅前の商店街を、グル!っと回って協会まで帰って来ます。」マコさんが、あん堵のためいきをついた。私達には、マコさんの気持ちが良く解り後に続いた。中橋さんは、「みなさん、どうかしましたか?」と笑った。

「さあ、次の人行きましょう。」と言われ、駅を目指して出発した。「この交差点をわたれば、吉祥寺駅です。1本・2本・・・4本めの交差点を左に曲がり、駅前の交差点を左に折れ、信号をわたり・・・・。突き当たりの交差点をわたらずに、右の交差点をわたり、バスどうりをわたり、右に折れて、いつものように協会まで帰ってきます。」私は、昨夜の説明を思い出しながら、現地での説明と照らし合わせた。

「ここが、吉祥寺駅です。」”案外、小さい駅だなあ’と思ったが、人の数は半端じゃない。電車が到着した際には、セキを切ったような状態。”これはすごい’「ここが、商店街の信号です。歩行者専用ですので、人の流れについて歩いて下さい。」 商店街の幅は結構広くて、感覚がつかみにくい。さすが、バーベリーは都会育ち。この人混みの中でも、ぶつかることもなく縫うようにすいすい歩いた。「どのくらいの混雑ぶりですか?」「結構、人が出ていますネー。」と、中橋さんは見回すようにして言った。

”バーベリーお前、人を避けるのが、結構上手いじゃないか’「ここの信号も、人についてわたります。流れを妨げないように気をつけて下さい。」説明を聞きながら、商店街を通りぬけた。

パチンコ店の前まで来たときに、「止めて!ハーネスをはずして下さい。」「エッ、どうしたのですか?」「ちょっと、ワンツー(排泄)じゃないか?と思って。」私は、”よりによって、こんなところで’と思ったが、ハーネスをはずし、指示を出したがする気配はなかった。声をかけられたところは、パチンコ店の前だったが、まさか、店の前でさせるわけにもいかず、少し、離れた所にいったのが、お寺の庭先で、そのことを、クラスメイトに話したところ、いらい、そのお寺を「ワンツー寺!」と言うようになった。

”都会にも、けっこうなお寺があるもんだなあ’と感心した。ワンツー寺を過ぎると、後は難しいコースではないが、距離がやけに長い。訓練が終わると、レイのごとく部屋に集まって、その日の感想を話した。今日のコースは、さほど変わったこともなくて、話がわきにそれた。何といっても、自由時間のおしゃべりは楽しい。話に、加われない彼が少しかわいそう。話の内容は、とるに足らないものだが、年の差があるせいか?どんな話題でも新鮮味がある。

特に、マコさんの「オテンバ話!」には、笑わずにはいられない。彼女の話し方は、迫力弐はかけているが、どう言うわけか?説得力があり、聞き手を自分の世界に引きずり込むのがうまい。話しと言えば、長野の彼女も負けてはいない。それもそのはず、彼女は話すことが商売。何を聞いても、彼女のそばにいるだけで、幸せな気分になれる。さまざまな話の中で、私はいろいろなことを教えられ、そして、自分なりに受けとめた。

彼女達は、今までに出会ったことのない、数々の輝きをもっていた。それは、今を大切にし、すべてのことに、前向きにとり組んでいるためだ。障害者は、とかく、消極的になることが少なくないが、彼女たちを見ている限りでは、そんなそぶりはみじんもない。不幸とは思わないまでも、不自由なことは同じだと思うが、なぜか、悩みなどないようにさりげない。 長年の、経験と自信が、輝きに華をそえていた。

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