アイメイト バーベリーとの出会い
(6)1回目のテスト

午後は、このコースのテストです。 午前中は、声をかけませんので皆さん頑張って下さい!」突然の、知らせにあぜんとした。何回か歩いてはいたが、言われるままに行動しただけで、地図が、全く頭の中に入っていない。ところが、驚いたことに、彼女達は地図の復習をしているではありませんか。「あの通りには信号があり、あそこの角にはクリーニング屋があって、青梅街道についたときには、右手にバイク屋があり音楽がかかっている・・。」しっかり、コースを覚えていた。

私は、話についていけずあせった。しばらくして、午前の訓練が始まり、私は、一回の歩行で、コースを全部覚えるハメになってしまった。いままでの、つけが一気に回ってきた。もう、こうなっては覚えるしか方法はない。"よし、行くぞ!'と、気合いをかけ、ハーネスをしっかり握り、「GO」と命令した。バーベリーは、いつものようにたんたんと歩き出した。私は、一つもみおとすまいと、足下の感覚にも気をつけ、周囲の雑踏にも耳を澄ませた。気をつけて歩いてみると、都会の雑音にも、何となく一つの流れがある。その上、交差点・信号の多いことに驚いた。これまで、あまりにも、あなたまかせだった事を反省した。

数日が経過していたが、張りつめた空気になじめない。協会の建物は、危険性を考慮して、ほとんどのドアーがガラス張りになっている。どこを歩いていても見えるように考えられている。安全が一番だが・・・。

自分の部屋にいる時だけが、唯一、一人だけの世界。 「さあ、これからテストです!ついていきませんので、一人で青梅街道まで行って帰ってきて下さい!」と言われ、一廻目のテストが始まった。年功序列と言うわけでもないが、最初に挑戦させられた。

「山戸さん、頑張って下さい!」と言う声に見送られ、私達は、雑踏の中へと出発した。一回目の角を曲がり、通称バス通りと言われている交差点にさしかかったところで、早くも失敗!!そこは、左側に駐車場があり、犬の向いている方向に気をつけていないと、とんでもない方向に進めてしまう事になる。私は、道順の事ばかりに気をとられ、バーベリーの位置を確かめず、「ライト」の指示を出してしまい、コースからはずれ、思いがけないアクシデントにあせった。"まいったなあ、こんな場所?通った覚えないぞ!落ちつけ・・・落ちつけ・・・。'

しばらくの間、自分がどっちを向いているのかも解らず、ほとほと困り果てた。あせればあせるほど、わけが解らなくなってくる。 ここで、挫折してはもともこもない。制限時間は特にない。

私は、もう一度来た道を考え、頭の中でくり返した。 "タバコ屋の角を曲がって、バス通りまで出て、突き当たりのクリーニング屋の駐車場のライトコーナーにつけ・・・・・。'と独り言を言いながら、やっと自分の位置をつかんだ。私達がたっていたのは、正確なコースより90度ずれており、コーナーを一つ曲がりすぎ、来た道の向かい側にいた。気をとり直して、「バック・ライトコーナー」で、私達は歩き始めた。"バーベリー、よしよし、その調子・その調子!' いくつかの交差点をわたり、やっとの思いで青梅街道に着いた。青梅街道は、午前中とは雰囲気がちがい、車の量が増えざわついていた。私は、いつものように指示を出したが、ライトコーナーにつける事が出来なかった。何度か試してみたが、結果は同じ事。"あれ、ちょっと様子が違うぞ!'冷静になって状態を確かめてみると、なんと!工事中になっていた。"これは、まいったなあ!'突然の事で、状態がつかめない。私達は、しばらく様子をうかがった。

いろいろな音を整理して聞き、バス通りの交差点のコーナーが解った。私は、バーベリーを右側すれすれにつけ、信号が変わったところで、「ストレート!ハップアップ(急いで)・ハップアップ!!」で、何とか第二関門を突破した。"これでシメシメ。後は、押しボタンの信号が解れば・・・。'と、思ったのもつかの間。帰りの道がやけに長い。それもそのはず、少し気をぬいてしまい、交差点の数を一つ間違え通り過ぎていた。"これは、またミスッタなあ!'もう、こうなると通行人に聞くしかない。

都会の人は、田舎の人のように、その近くに住んでいることは少なく、どう聞いても知らない人が多く、気が気ではなかった。数人に聞き、やっと、押しボタンの信号までたどり着き、協会の前で「お帰りなさい!」の声を聞けた時には、人目もはばからず飛び上がった。バーベリーは、まだまだ、

中橋さんの方がいいのか、よそ見をしてキョとん!としていた。

今回のテストは、人それぞれアクシデントがあったが、全員無事に帰って来る事が出来た。このコース別のテストは、時間内に帰ってくるのではなく、歩行のルールを守り、目的地にたどり着く事が主体になっている。このコースは、スムーズにいけば、30分くらいで帰ってこられるが、私は、迷いに迷って1時間近くもかかってしまった。

この苦い経験を生かして、次回からは、初めてのコースは、事細かくメモをとる事にした。ミーティングが終わると、そのメモを参考にし、頭の中で、足下の感覚・道路状態など、弐頭立ての独自の地図を作った。

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