飲むぞA

「レストラン」ならビールでもワインでも飲める。しかし「食堂」だとダメ。それではその「レストラン」と「食堂」の違いは一体どこにあるのか。別段、2つの違いを定義する別々の単語があって、店の入り口に表示がしてあるわけではない。いずれも、看板がある場合には、おもいおもいの思いをこめて、レストラン、と書いてあるのが普通である。

法的にどうなっているのかは知らない。やはり然るべき法律によって、そこははっきり定義付けがされているのだろうと思う。しかし、そんなことは私たちには関係ない。旅先などで飛び込んだそのお店で、よく冷えたビールにありつけるのか、甘いコーラで辛抱しなくてはならないのか、その見分けには法律も何もない。

まず、双方ともに、いかにも、、、というところは問題ない。外国人の観光客目当てのお店なら、中華だろうがフレンチだろうが、はたまた郷土料理だろうが、まず間違いなく「レストラン」。お酒もある。一方、現地人専門、外国人などよっぽどの物好き以外はまず入らない、小ぎたないお店、、、こういう、世界共通、郷土料理の「これはうまい」にありつける可能性のあるところ、、、では、水かコーラと決まっている。

問題はその境界線、どっちとも判断しかねる場合である。店の外装からして、ここならビールくらいは、、、と思っても、ダメといわれるケースの方が多いのだが、うまく当たると得した気になる。

ある年、例のお花見ツアーであちこち走りまわった私たちは、ラバトとフェズを結んでいる国道のかたわらにある、ちょっと小ぎれいな感じのモロッコレストランで、少し遅めの昼食をとることにした。ビールはと聞いたら「ない」。見かけと違って「まじめレストラン」なんだと、いつもの調子で羊の串焼肉をたのんだ。

食事を終えてふと気がついたら、レストランの前の広場の端の部分、国道への出口付近に1台、タンクローリーが止まっていた。さっきまで串焼きを返したり、パンの入ったかごを出したり、あれこれ私たちのために面倒を見ていた店の主人が、バケツを二つ手にさげて、そのタンクローリーへと近づいた。そうしてタンクのコックを開いた。

「見たか?」「ああ、見た。」「あれ、だまって見逃す手はないぜ。」「ああ、まあな。」

タンクローリーのコックからバケツに流れ込んだもの、それがワインだったのである。見れば確かに、しょっちゅうお世話になっている赤ワインの銘柄が、タンクにデザインされている。帰ってきた主人を追って相棒が調理場に入った。お金以前の問題だ。もし飲ませたら営業許可の取り消しになる。絶対にダメだ、、、と、取りつくしまもないと帰ってきた。しかし、それであきらめるようなヤワな協力隊ではない。お金を受け取れないのなら、ただにすればいい。店で飲ませられないなら、外のどこでも結構だ。食事はすでに終わってるんだ。一口味見をするだけだ。もう一度かけ合えとあおった。

結局、店の主人が根負けした。レストランの奥深く、調理場のかげで、これで好きなだけ飲め、、、と、それぞれに1つずつマグカップをくれた。これからバイクを転がしてラバトまで帰る身だ、酔っ払うほど飲むものか。バケツからしゃくって飲んだあのワイン、、、味のほどは覚えていない。しかし、生ぬるくはあっても、普段ビン入りで飲むやつより、気持ちとしては美味に思えた。主人には、後日お礼に、一緒にとった写真を送った。

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