特異日

気象上の特異日というのがある。たとえば、古いお話ながら、現在の体育の日10月10日は、晴れの特異日であるために、東京オリンピックの開会式の日に選ばれたと聞いた。長い期間を通じて、ほぼ毎年、晴れになる確率の高い日は晴れの特異日、逆に雨なら雨の特異日。実はこれがセネガルをはじめとするアフリカ西海岸にも存在する。

え、晴れの特異日か? あなた何を言うんですか。乾期になれば、サハラぐもりは別として、7、8ヶ月も、晴れしかない土地なんですよ。日本式の、ただ単に晴れになる確率が高いという意味だけの「特異日」なら、乾期の間は毎日が「晴れの特異日」になります。

ここで私が取りあげるのは、その毎日晴れの乾期のさかりに、毎年この日には必ず雨が降るという、そういう意味での「特異」な日のことなのです。そんなことがあり得るのか? あるんですよ、それが実際あるのです。高気圧の牙城を崩して、低気圧が切りこんでくる。強力な相手に猫だましをくらわして、とったりで引き倒す、、、そういうことが、起こるのですよ、ある特定の日に、かならず。ほこりだらけのハルマッタンの吹く乾期に。

10月半ばにあがくみたいに一雨降った。あれがやっぱり最後になった。すでに時はもう年末。10月半分、11、12、すでに2ヶ月半過ぎた。すでに乾期も折り紙つき。もう絶対に雨はない。すでに2ヶ月半ないのだ。これから先はジワジワといびるように伸び続ける水銀柱の目盛りを相手の消耗戦。あーあ、これから本格化する乾期、ほんと、生きて乗り切れるんやろか、、、と、不安がよぎるそういう時期。サハラ砂漠の高気圧は南下して、セネガルやニジェールをすっぽり包みこんでしまう。モロッコのラバトで雨の中休み、フェズのメディナの光が優美なあの時期に、セネガルで猫だましが起こるのである。

私は1986年の12月にセネガルに赴任した。だから当然、87年1月1日にはセネガルに居たはずである。しかし、その日雨が降ったかどうかは一切記憶に残っていない。着任直後のあわただしさと気候に対する無知からすれば、気がつかないで当然としたものだ。しかし、カナリー諸島へ家族と旅行した89年は知りようがない関係で別にすれば、私がアフリカ大陸にいた88年、90年、91年と、1月1日にいずれも雨が降ったのである。パラパラと散っただけのこともある。ザーッと一刷毛、刷いたみたいに通りすぎたこともある。しかし、雨にかわりはない。88年元旦は、ダカールから300キロほど南にあるガンビアの首都バンジュール、90、91の両年はいずれもダカールでのことである。

1月1日には雨が降る、この事実に私があれっと思ったのは90年、つまり、柳の下に2匹目を見つけた時のことである。91年に3匹目をみつけて、これは確実に「特異」な日だと思った。後に見つけた気象関係の資料にある85年1月1日11時55分の気象衛星METEOSATの画像では、セネガルのダカールもガンビアのバンジュールも、雨をもたらす雲の下に隠れている。85年にもこの日に雨が降ったのだ。

実はこの時期、サハラ砂漠の高気圧ともう一つ、ポルトガル沖アゾレス諸島に中心を置く高気圧との間に、決まったように気圧の谷が発生する。モロッコの南部からセネガルにいたるアフリカの西海岸に重なり合ったその谷あいを狙うように、低気圧が北のほうから南下してくる。そうして、乾期の真っ只中に、時ならぬ雨を降らせることになるのだ。

この雨を人々は「マンゴ雨」、、、マンゴの葉っぱのほこりを洗う雨、、、と呼ぶ。1月1日はそのマンゴ雨の特異日だと、、、ひょっとしたら、私の思い過ごしなのだろうか。

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