ニジェールでは、八月三日は「全国植樹記念日」になっている。フランスからの独立を果たしたこの記念すべき一日に、全国各地の自治体が植樹に関するセレモニーを開催し、首都のニアメ市では大統領が参加して記念植樹を実施する。
私たちのプロジェクトでも、始まった翌年から、独自の記念行事を開いている。この日、近隣の村人たちへの苗木の配布や各種のビデオ番組の上映会などが行われる。その中で、最大の呼び物は、何と言っても、午後4時頃から始まる「相撲大会」のそれである。
西アフリカにも独自の形の相撲がある。勿論、日本の相撲とはルールが違い、土俵もないし褌(まわし)も付けない。しかし相手を倒してしまえば勝ちという基本ルールに変わりはない。
近隣の3つの村から各1組、それに協力隊チームが加わって、計4組が参加する。各チームは5名ずつ。トーナメントで団体戦を行って1位から4位までを決める他に、それぞれ戦う2試合の中1回でも勝った選手は、個人戦に参加できる。
賞品も豪華である。団体戦で1位の村には米100キロ、2位にはミレット(ヒエの一種)100キロ、3位にもなにがしか。個人戦の1位には自転車、2位にはラジカセ、3位には腕時計。当然、参加する村人たちには気合がかかる。
しかし、その村人以上に熱が入るのが協力隊のメンバーたちである。最初の時には、果たして選手がそろうだろうかと心配した。ところが案に相違して、俺も俺も。プロジェクトのメンバーだけで足りない分は、すぐに埋まってしまうのである。
相手は農民たちである。すらっと痩せて居るとは言え、体の鍛え方が違う。それに押し出しなどという日本ルールは通用しない。褌を持って投げる訳にはいかない。隊員たちは出場が決まったら、1週間も10日も前から、ニジェール人の友達を相手に毎日稽古をする始末。
いざ当日、砂丘から砂を運んで敷き詰めて土嚢で囲んだ試合場は、近隣の村人、老若男女、黒山の人だかり。私は大会実行責任者として、村長たちと椅子を並べて特等席で見物する。家族も勿論、協力隊の関係者もほとんど全員参加である。
日本チームの出番ともなると緊張は嫌が上にも高まって来る。村の子供たちは顔見知りの隊員が出てくるともう大喜び。「タケーッ」とか「ハラダーッ」とか声を限りの大声援。
例年、必ず一人か二人は一勝する。その時の興奮は、村人同士の優勝戦のそれを凌ぐくらいである。隊員たちは小躍りするし、声援していた子供たちはこぶしを振り上げ、笑い声は天をつく。しかし、団体戦ではいつもビリ。個人戦まで残っても、一回戦を突破する隊員は滅多にない。とにかく一試合戦うだけで、もう息が上がってしまうのである。それでも果敢に挑んでいく隊員たちの姿には、日頃から辛口でなる私でも感動する。勝ち負けなんか二の次なのだ。そんなことは頭から分かっている。
8月3日は植樹記念日。隊員の活動を終了して日本に帰って来てからも、もう一度この日に合わせてニジェールへ行きたいと言うOB、OGは一杯いる。実は私も、本当言うなら、その口なのだ。
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