ここまでしてもらわなくても、いいのに・・・(ガイド編)

●その1
まだ盲導犬歩行をしていない時のある日、一人で高知市まで行って帰る時のこと。
高知から汽車に乗ったところ、車内は思ったより込んでいて、通路にも人が立っているような状態だった。
これでは、空席を探すのは無理だし、もう席は空いていないだろうと思い、デッキの壁にもたれて立っていたら、2つ後の駅から乗ってきた中年の女性が、いきなりアウリンの手をつかみ、「はよう、はよう(早くはやく)席を空けちゃりや、この娘は目が悪いがじゃき。デッキのところに立てりよって、転びでもしたら大事じゃき。はよう、はよう・・・。」と言って、車内にぐいぐい引っ張られて行った。
その女性は、目が悪いのに壁にもたれて立っているのが、かわいそうにと思って親切心て座らせてくれようとしたのだろうけど、デッキに立っている方が自分の位置が分かり、都合が良かったアウリンにとっては、ただただ、ぐいぐい引っ張られて、どこの席かも分からない所へ連れて行かれたりすると、反対に、ありがた迷惑だった。
その女性の迫力ときたら、人の言うことは聞かないし、無理やり席を空けさせたような感じもあったし、こんな調子だと、普段もかなりおせっかいをしているのではないかと・・・・。

●その2
市内の福祉センターで、点字教室があった時のこと。
その日は、はいていたパンツの丈が少し眺めだったので、かなりヒールの高いパンプスを履いて行った。
福祉センターなどでは、そこの職員が手引きをしてくれることが多いのだけど、その日は、点字教室の生徒さんが手引きをしてくれた。
手引きをしてくれた人はかなり体格の良い女性で、最初は、「高い靴を履いちょるけん、階段は怖いねえ。エレベーターで行こうかねえ。」と言うことで、エレベーターの前までくると、メンテナンスのために使用できませんという張り紙があった。

すると、手引きをしてくれていた人が急にしゃがんだので、どうしたのかなと思っていたら、「階段は怖いけん、私がおう(おんぶ)けん、背中につかまったや。」と言ったのには、そりゃ驚いた。
「いやー、階段でも全然大丈夫だから、手すりの位置さえ教えてもらえると・・・。」と言うと、「そしたら、床はクロスできれいに掃除しちょるけん、階段の所ばあ裸足になったや、そんな高い靴履いて、こけでも(転びでも)したら、しまいじゃけん(大変だから)。」と心配顔だったけど、大丈夫だから、手すりはどこですか・・・。」というと、「ほんまに大丈夫かい、手すりはここじゃけんど・・。」と教えてくれたのはいいけど、アウリンが上がり始めると、「そんなにはよう歩きよって、こけでもしたら・・・。」と言ったかと思えば、今度は、アウリンの脇を抱えて、階段を上がり始めた。
脇を抱えられたアウリンは、足が宙ぶらりんになり・・・。
2階の踊り場にきた時に、「目は悪いけど、足が悪いわけじゃないから、階段も全然大丈夫だから、手引きはしてもらわなくてもいいですよ。」と言うと、「ええかえ、ほんまにかまんかえ・・・。」と。

そこからは、一人でさっさと歩いて3階まで行ったのを見て、他の生徒さんに、「目が見えん言うたちすごいぜ、あの高い靴を履いて階段を走り上がるけん。私ら、あんなに高い靴を履いて、よう歩かん・・・。」と大声で話していた。

怖いだろうと思って、抱き抱えられてしまうと、足が地に付かず反対に怖い思いをする。手引きをしてくれる時には、肩か腕をもたせてもらえれば大丈夫なのに・・・。

●その3
講演会での靴騒動のこと。
学校などでの講演会は、玄関で靴を脱ぐことが多くて、隅の方に脱いで上がることが多い。
その日も、いつものようにすみの方へ脱いで校長室に入り、予定通り講演会も終わり、玄関に行ったところ、置いたはずの所に靴がない。
おかしいなと思い、その辺りを手で触って確かめてみたけど、スニーカーが一足あるだけだった。

しばらくして、送ってくれる先生が来たので、靴のことを聞いてみると、自分は、アウリンの靴は見ていないから分からんという。
「靴は、黒のパンプスで、ヒールの高さは5センチくらい、サイズは・・・。」と言うと、「先生たちの靴も似たような物ばっかりで、なかなか分からんねえ。」と言いながら、「これかい、これかい・・・。」・・と、5、6足持ってきて触らせてくれたけど、自分のとは全部違っていた。

もう、いらいらしたアウリンは、玄関に下りて、何十足もある靴の中から自分の物を探したけど、玄関のげた箱の中には、どこにもなかった。
その日は、保護者会長さんの家だったか、先生の家だったかは忘れてしまったけど、この後、お葬式があるということで、みんなが黒い靴を履いて来ていた。
靴を探してくれた先生は、迎えに来てくれた先生とは違う人だったので、「迎えに来てくれていた先生に、どこにしまってくれたのか聞いてくれませんか。」と言うと、その先生は出張に出ていて、もういないと言うことだった。

そこに校長先生が来て、どうしましたか、もうとっくにお帰りになっていると思っていましたが・・・。正面玄関は、階段がたくさんありますから、お帰りの時には、裏のスロープの所から出ていただこうと思い、靴はそちらに回していましたが、お分かりでしたか・・・。」・・・と。
回したら回したで、そのことを、きちんと知らせとけ・・ちゅうの・・・。

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