母への手紙 天まで届け・大切なあなたへ・・

 久しぶりに、あなたの夢を見ました。

毎年、桜の季節が来ると、あなたの元気だった頃を思い出します。

一気に駆け抜けてしまったあなた、まるで桜の花のようでした。

あれから、もう36年が過ぎてしまったんですね。

この花の季節を、今まで一度も忘れたことがなかったのに、今年は思い出すことができませんでした。

それだけ、私の気持ちが、ずうずうしくなってしまったのかも知れませんね。

あの日は、誰もが、あまりにも若くて突然のあなたの旅立ちに・・・。すみきった空までが、去り行くあなたを惜しむかのようでした。

最後のお別れの時、大きな桜の花びらが棺に舞い落ち、私は全てがえぐり取られたようで、そのまま身も心も凍り付いてしまいました。

とてもきれいで、素敵なあなたのわずか40年の人生を思う度に、あまりの寂しさに我を忘れてしまったことも何度もあります。

あれから3年の後、私は結婚し二人の子どもにも恵まれ、娘は嫁ぎ、息子は1人暮らしをしていますので、今は、連れ合いと盲導犬と暮らしています。

花嫁衣装も、孫の顔も知らないあなた、せめて今日まで生きていてくれたらなと寂しいです。

そういう私は、もうあなたの年齢を16歳も過ぎてしまいました。

顔が見えない私は、あの頃のあなたの顔を思いだしては自分の姿を想像しています。

あなたより年を取ってしまったんだなと思うと、ちょっぴり寂しいようでもあり、反面、これまで生きてこられたんだな・・・と思うと、とても複雑な気持ちです。

けど、私は絶対にあなたを追い越すことはできません。いつまでも、あなたは私のたった1人の母だからです。

それにしても、36年という月日は、早いようでもあり、その寂しさの中で生きてきたことは、本当に長かったような気もしています。

こんな私ですが、あなたが最後にくれたダイヤの指輪や、一度も袖を通すことができなかったうす桃色の着物が似合う年になりました。

けど、あなたは私が失明したこと知るはずもないですよね。20年ほど前に全く見えなくなってしまいましたが、知らなくて幸せだったかも知れないなと思うこともあります。

その当時は、いろいろと大変なこともありましたが、今は、こうして毎日何とか暮らしています。

最後に見た、あの群青色の海に沈んだ夕陽、また、明日が来ることなど考えられませんでしたが、生きている限り、同じ太陽が昇ってくるんですよね。

こうして、人は、さまざまな営みをくり返し、やがて、誰もがみんな土に帰り、永遠の眠りにつくのだと思えるようになりました。

その日までが、太くて短い人、細くて長い人・・・、決められた運命の中で、今を生きるしかないなと思う今日この頃です。

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