その他の雑学
電離層


 電離層とは、何でできているのでしょうか。
アマチュア無線をやっている方なら、電離層の存在を知らない方はいないと思います。
そして、短波通信には欠かせないものと言う事はごぞんじだと思います。
何となく漠然としていて、分かりにくい存在です。
一体、どんなものか調べてみましょう。

 空気と紫外線地上の空気は、高い場所に行くに従って薄くなる事はよく知られています。
成層圏(10〜20キロメートル)では、まだジェット機が飛べるくらいの濃さ(密度)がありますが、100キロメートルくらいになると、グッと薄くなって来ます。
高さが増すと、さらに密度は減少しますが、400〜500キロメートルあたりまでは、真空ではなく、ごく薄くではありますが空気はまだあります。

 空気は、酸素と窒素が大部分を締めますが、他にも、二酸化炭素やアルゴンなども含まれます。
そして、空気は電気的に中性で、つまり、+でも−でもない普通の気体です。
 ところで、太陽の光は7色の虹に表される様に、様々な色が混ざり、これらの色は、その波長によって変わります。
赤は長い波長で、約800ナノメートル。
紫は短い波長で、約400ナノメートル。
そして、それより波長が短い領域を紫外線と呼んでいますが、太陽の輻射には、この紫外線も多く含まれている他、X線の輻射もあります。

 薄い空気に紫外線が当たると、空気の成分の酸素や、窒素などの分子や原子が電離します。
これらは、普通の状態では中性ですが、紫外線の照射などによって、特別にエネルギーを与えられると、原子、分子から電子が飛び出して−イオンとなり、残りは+イオンとなります。
これを、電離と言います。

 原子、分子の種類と密度、紫外線の波長と強さで電離の状況が変わり、電子の分布は、高さによっていくつかの層の様な分布になります。
これを電離層と呼んでいます。

 電離層の観測電離層は、大キク3つの層に分ける事がデキます。
地上から80〜90キロメートルあたりの領域をD層、90〜100キロメートル前後をE層、そして、200〜500キロメートルあたりをF層と呼び、F層は、サラにF1とF2層に分けられます。
D層の電子は、地上50キロメートルあたりマデも存在するので、この辺を下限と言うこともあります。

 電離層の主役は、電子です。
電子が存在する事で、導体と同じ様な性質を示す事になり、電離層に入ってきた電波は、ここで反射される事になります。
この場合、反射する電波の周波数の上限は電子密度によって変わります。
どのように変わるかを、観測する為に、実際に地上からパルス電波の周波数を掃引(スイープ)しながら、上に向けて発射(垂直打上げ)します。
この反射波を受信して記録すると、パターンが得られ、これを、イオノグラムと言います。
イオノグラムは、周波数を横軸に、電波を反射する領域の高さを縦軸に示しています。

 観測点から電波を打ち上げて、電離層の反射波を受信するまでの時間が電波で見た見掛けの高さを示します。
電波の反射を示す線がE層によるもの、F2層によるものと言うように分かれています。
そして、周波数が高くなると反射がなくなってしまう所があります。
これを、E層やF2層の臨界周波数と言います。

 臨界周波数を越える周波数では、電離層からの反射はなくなりますが、電離層への電波の入射角が、90度より小さく(斜め入射になる)と反射の様子が変わって来ます。
電離層に、電波が入射する角度が、90度から次第に小さくなった場合の電波の伝わり方は変わります。
臨界周波数を越えた電波は、仰角が大きい90度に近い上向きの場合は、電離層を突き抜けますが、少し斜めになると、反射されるようになります。
この場合、臨界周波数が高くなったのと同じ効果があります。

 入射角によって、反射可能な周波数が変わる関係を正割則(せいかつそく)と呼んでいます。
入射角が小さくなるほど、高い周波数でも反射される事になります。
通信用のアンテナは、ビームが水平に近い方向なので、電離層えの入射角は小さくなり、したがって、臨界周波数よりズッと高い周波数の電波でも反射されます。

 電離層の種類。
電離層は、太陽の紫外線などによって作られますが、この過程が分かるのはD層です。
D層は、地上80〜90キロメートルあたりにできますが、その電子密度は、日の出と共に増加して、昼に最も大きくなり、日没と共になくなると言う太陽の仰角に応じた変化を示します。
しかし、電子密度はそれほど大きくなくて、中性の分子は多いと言う環境にあるので、電子と分子の衝突は多く、そのために、電子のエネルギーは失われてしまいます。

 D層を通過する電波は、そのエネルギーを電子に与えるために減衰する事になります。
つまり、昼間のD層は電子の吸収層です。
昼間は、近くのラジオ放送局しか聞こえないのに、夜になると、遠くの局も聞こえて来る事で、D層が消えた事が分かります。

 F層では、夜になっても電子が消滅する事がなく、電波の伝搬にも役立ちます。
また、地磁気の変動や大気の動きなどによって、電子密度の分布は、特長を持ったF層の状態を見せます。
電離層観測衛星ISSによって、観測されたF層電子密度の世界分布の例を見ると、地磁気赤道の両側に電子密度の山がありますが、このような分布が赤道横断伝搬を可能としていると考えられています。

 このように、電子密度は、太陽の動きに対応した日変化の他に、季節変化などもあって、短波の伝搬も春夏秋冬と違いを見せる事になりますが、DXer(DXサー)は、これらの変化をくみ取って相手局を探します。
この他に、スポラティックE層(Esと書く)略して、Eスポと呼んでいる反射領域がE層の高さの値に現れる事があります。
ESが生まれる過程は、E層やF層とは違っていて、地上100キロメートルあたりにある電子(流星による電離が係わると言われる)、電離層内の風で動く事によって、地球磁場の作用で薄いが、密度の大きい小領域の集まりとなったものであろうと考えられています。
したがって、VHFの周波数でも、反射する事ができ、VHF異状伝搬の一因となっており、ESの発生を知るとVHF帯でのDXをかせぐ事ができます。

 太陽面の活動太陽の紫外線は、太陽活動に応じて変化しますので、電離層の電子密度も、また活動の大きさに対応して増減します。
太陽黒点が増えると、DXコンディションが良くなると言う訳です。
太陽活動は、よく知られているように平均して11年の周期を示します。

 また、太陽活動は、活発になり活発な活動領域が増え、そこで、フレアー(エネルギーの爆発的な放出)が起こった時に、輻射されるX線がD層の電子密度を一時的に大きくし、吸収が強まって短波帯の電波がよく聞こえなくなる事は、デリンジャー現象として知られています。
電離層は導体ですから、地磁気の分布と、その変化に影響を受けます。

 一方、日照は地理的、緯度、経度によりますから、電離層には両者の複合した効果が現れています。
また、地磁気の変動で電離層に変化が現れますが、その著しい場合が地磁気嵐と呼ばれる現象です。
地磁気嵐には、太陽面のフレアーによって生じる荷電粒子流が地球に入ってきて起こる大規模な嵐の他に、太陽面上のコロナホールと呼ばれる部分から流れ出る荷電粒子流と、地球が出会った場合に起こる小規模な嵐があります。
これは、太陽の自転による27日周期が明らかに見られます。
これまで述べた電離層には、全体をまとめた形で電離圏と言う呼び名があります。
また、E層F層と言っても、それぞれ一枚ずつのシートのようなものではなく、電子密度の差は、あるけれど繋がっているものです。

 電離層の存在は、1902年に、演算子法やベクトル記法で知られたイギリスのオリバーヘビサイトと、アメリカのアーサーエドウィン、ケネディーの2人が独立に予測しました。
そして、1925年になって、イギリスのアップルトンが電離層の存在を実験によって確かめ、電離層の研究を始めました。
のちに、電離圏の研究でノーベル賞を得ています。



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