女性に多い病気
乳癌


 元もと、日本では乳癌は、欧米に比べて少なかったのですが、日本人の乳癌の現状は、かなり欧米の水準に近ついてきつつあります。
これは、他の生活習慣病などと同じように、食生活が欧米化していることと無関係ではなく、今後更に増えることも考えられます。
それと、初潮から閉経までの期間が長くなったこと、つまり、初潮が早くなり、閉経が遅くなってきたために、女性ホルモンが出ている期間が長い訳です。
女性ホルモンのエストロゲンにさらされる期間が長くなると言うことが、乳癌と極めて大きな関係があります。
若い女性で、何らかの原因で卵巣を両方取ってしまった人の場合は、乳癌の発生率が普通の人の100分の1程度だと言われます。

 乳癌は、希にですが男性にもできることがあります。
男性も、わずかですが、睾丸と副腎で女性ホルモンを作っています。
ですから、確立は低いですが男性も乳癌になることがあります。

 いずれにしても、乳癌は他の癌にくらべると、自己診断が可能な癌です。
乳癌の発生する年令は、閉経期を迎える少し前の40代に1番多く、次いで50代、60代、30代となっています。
乳癌は、1期〜4期に分けられ、1期は、しこりの大きさにして2センチ以下、2期は2〜5センチ、3期は5センチ以上、4期は大きさを問わないで、どこかに遠隔転移している状態を言います。
つまり、他の臓器に転移している乳癌は、小さくても4期と言うことになります。

 次に、自己診断法についてです。
乳癌は、唯一、体の外にある臓器の癌ですから、見たり、自分で触ったりして見つけることのできる代表的な癌です。
触った時に、何らかの固まりに触れたら、まず癌を疑わなければなりません。
それから、乳頭から出血がある場合も乳癌の徴候の1つです。
この場合、必ずしも鮮血色ではなく、茶褐色や黒色の場合もあります。
乳癌の早期発見には、シコリと出血の2つが非常に重要な点になります。

 触診の仕方ですが、乳房を掴むようにするのではなく、手の平、特に、指の腹で触るようにすると、シコリがよく分かります。
掴むようにすると、どうしても乳腺を掴むようになり、シコリを見つけることが難しくなります。
早期発見は、2センチ以下のシコリを見つけることが大切ですから、隅からすみまで丹念に行ないます。

 そして、もう一つ大事なことは、立った姿勢で行なったり、あるいは、横になった姿勢で行なったりと色々な姿勢で触診して見ることです。
触診の時期は、生理のある方は、生理が終った直後が、乳房が柔らかくなるので発見しやすい時期です。
また、入浴後、鏡の前に立った時、両方の乳房を見比べて見るのも大事なことです。
乳癌ができると、乳房の形が左右で違ってきたり、乳頭の位置が変わってきます。
シコリがなくても、このような変化が出てきたら、やはり、癌を疑ってみることです。

 それから、もう1つ触って調べる所があります。
それは、脇の下のリンパ節です。
乳癌が転移すると、このリンパ節が堅く大きくなります。
乳房でシコリを見つけられなかったのが、脇の下のリンパ節で見つかる場合もあります。

 次に、乳癌の外科治療についてです。
乳癌の外科治療には、既に100年以上の歴史があり、癌の手術の中で、最も古い治療法と言われています。
乳癌の手術は、まだ麻酔のない時代から行なわれていたと言う訳です。
 その後、治療法が進歩して、1番始めに確立されたのが、ハルステッドの手術法です。
これは、乳房を取るだけでなく、その下の大胸筋、あるいは、小胸筋も同時に取ってしまい、更に、脇の下のリンパ節も取ると言う手術です。
この手術法が、長い間行なわれてきました。

 それまでは、早期発見などと言うことがなく、ある程度進行してから見つかることが多く、筋肉や、リンパ節にも転移している例が大半で、他の治療法もありませんでした。
そして、その後、更に手術法が進歩して、乳房と、リンパ節を取り、筋肉を取らない手術法になってきました。
この方法を、オッケンクロスの手術法とか、ベイジーの手術法などと呼んでいます。
これが、現在の標準的な乳癌の手術法となっています。

 最近では、乳房温存手術法と言う手術法が登場してきました。
もちろん、早期発見の場合だけに適用されます。
この手術は、癌の部分とリンパ節を取る方法です。
しかし、癌を全て取り除くと言うことが難しく、場合によっては、その後、放射線治療を行ないます。

 この方法は、2期の癌が約3センチほどまで可能だと言われていますが、問題がないわけではありません。
と言うのは、乳房は両方ほぼ同じ大きさが普通ですが、この手術をすると、左右の大きさが変わってしまいます。
もともと、乳房の大きい方は、あまり変化が目立たないかも知れませんが、そうでない方は、乳房温存手術はあまり意味のない、手術法と言えるかもしれません。

 日本人の乳癌は、欧米人に比べて、治る確率が非常に高く、更に、日本の病理学の先生方が、切りとった病片を顕微鏡で、詳しく調べ癌が残っていないかと言うことを丹念に見てくれます。
乳癌の治療法には、この他に、ホルモン療法と、抗癌化学療法があります。
ホルモン療法は、女性ホルモンのエストロゲンを使います。
エストロゲンは、乳癌を発生させると書きましたが、それを利用して治療もできるのです。

 それは、卵巣の機能がある、つまり、まだ月経のある方が乳癌になった場合は、このホルモンが癌の増殖を助けることになります。
そこで、卵巣を除去し、エストロゲンをなくしてしまうと乳癌がグッと良くなったり、消えてしまいます。
この方法は、1世紀も前にイギリスのビートソンと言う医者が発見した方法です。
 しかし、この方法は、手術を受ける患者にしてみると、かなり抵抗があるようです。
それに、このホルモンがなくなると、老化が促進され、骨粗鬆症も早く進みます。

 そこで考えられたのが、ホルモンが出ていても、その働きを抑えてやると言う方法です。
これは、乳癌の細胞に結びつき、エストロゲンが癌細胞に働くのを邪魔してやると言う薬ができました。
これは、卵巣を除去した場合と同じことになります。
また、副腎で作られるエストロゲンは酵素を作りますが、その酵素の作用を抑える薬もできています。

 どの方法を取るかは、乳癌の組織の中に、エストロゲン受容体があるかないかによって決まります。
それがある場合は効果がみられますが、ない場合は効きにくいと言われています。
乳癌の治療は、このようなことを調べて方法を選択します
抗癌化学療法は、飲み薬や注射薬などがありますが、乳癌には高い効果が得られていますし、乳房再生手術法も進歩してきました。



 女性に多い病気 トップにもどる