女性に多い病気
甲状腺


 甲状腺は、首の前にある輪状軟骨と言う骨の前に、蝶の形をしたホルモンを作る臓器です。
普段は触っても分かりませんが、病気になると、腫れてきますので分かりやすくなります。
ホルモンを作る臓器としては1番大きな臓器で、重さ10〜20グラム、大きさは数センチほどです。
 甲状腺は、ヨードを蛋白質に付けて、甲状腺ホルモンを作ります。
この甲状腺ホルモンは、体の中で新陳代謝を高める働きをしています。

 それから、熱を作って体温を上げると言うような働きをします。
このホルモンがないと、熱ができにくくなり、非常に寒がりになったり、便秘になったり、皮膚がカサカサしたり、特に、子どもでは、発育に大きく関係し、知能の発達が遅れ、成長も遅れて、背が伸びにくくなります。
 逆に、このホルモンができ過ぎると、機能亢進症として作用が過剰になります。
ですから、甲状腺の病気には、大きく分けて、機能低下症、機能亢進症、それから、ホルモンは異常はないが、甲状腺その物が何等かの原因で腫れてくると言った三つがあります。

 機能亢進症で1番有名な病気に、バセドウ病があります。
この病名を使うのは、日本と、この病気を発見したバセドー氏の出身地のドイツで、アメリカやイギリスなどの英語圏では、グレーブス病と呼んでいます。
 バセドー病の原因は、甲状腺を刺激する抗体ができて、その結果、甲状腺で勝手にホルモンが沢山作られ、そこで、ホルモンが過剰の状態となり、様々な症状が起こってくるとされています。
どうして、このような抗体ができるのかですが、体の中にある免疫機構に異状が起こり、本く、自分の組織である甲状腺に対して、自分の免疫が反応してしまうからです。
これを、自己免疫疾患と言いますが、普通の自己免疫疾患の場合は、障害して、その機能を抑えるのですが、なぜか、バセドウ病の場合は、甲状腺を刺激し、甲状腺を刺激するホルモンよりも強く働く抗体ができて、その結果、甲状腺が本くの体の調節機構から外れて、勝手にホルモンを作ってしまうために起こってくる病気です。

 バセドー病は、よく眼球が突出すると言われていますが、必ずしも目が飛び出す人ばかりではなく、他に、脈が早くなるとか、甲状腺が腫れてくると、全身の様々な症状が起こってくます。
熱が沢山作られますから、非常に汗かきになったり、暑がりになる、食べても食べても痩せてくる、それから、胃腸の働きが盛んになり、下痢をしたり、女性の場合は、生理が不順になったり、妊娠しにくくなったり、非常に、いらいらしたりします。
また、手が細かく震えたりと言ったような症状が出てくます。
 このように、他の病気の症状と似ている症状が多く出てくることから、他の病気と間違えられることもよくあります。
最近では、簡単に血液を調べることで、すぐに分かるようになってきました。

 バセドー病の治療法は、内科的に甲状腺の働きを抑えるような薬を使います。
最初は、かなり多い量ですが、症状を見ながら減らしていきます。
その間、素人判断で症状が良くなったと言って、勝手にやめてしまうと、また、症状がぶり帰すことがありますので、薬をやめるタイミングが難しくなります。
だいたい、1〜2年は飲み続けるようになります。
そんなに長期間に渡って飲めないと言う方や、飲んでいる間に、副作用があったと言うような場合は手術をして、甲状腺を取るとか、あるいは、年令が少し上の方だと、アイソトープと言って、放射能を少し出すヨードを使って甲状腺を壊すと言った治療を行なったりします。
それぞれに、長所と短所があり、どれを選択するかは、医師とよく相談する必要があります。

 次は、橋本病についてです。
九州帝国大学の先生で、橋本はかる博士が、1912年に4人の患者について報告しました。
それが、世界中で橋本病として有名になりました。
日本人の名前の付いた、最も有名な病気です。

 この病気の症状は、甲状腺の腫れ以外は、漠然とした症状が多く、肩がこるとか、頭痛がする女性に多い病気で、生理不順になったり、皮膚がカサカサするとかの症状で、これらは、甲状腺ホルモンが不足してくるために起こってくます。
ホルモンが激減すると、上のような症状が強くなったり、むくみがひどくなったり、髪の毛が抜け安くなったり、あるいは、根気が続かないなどの症状が起こってきます。
ただ、多くの場合は、ホルモンの働きは正常なことが大半で、甲状腺の腫れだけが少し目立つと言う程度です。
そして、多くは、機能は正常だったり、あるいは、1時的に機能が悪くなっても、しばらくすると回復することもあります。

 中には、長い間にホルモンが徐々に足りなくなってきて、むくみがひどくなったり、脈が遅くなってきます。
丁度、、30代から40代の女性に多い病気ですから、更年期障害と間違えられたり、他の病気と間違えられることもあります。治療法は、甲状腺ホルモンを少量摂取することで劇的に治ることもありますが、ヨードを大量に含んだ食物を減らす食事も大切です。

 最後は、甲状腺の腫瘍についてです。
甲状腺は、甲状腺ホルモンの材料となるヨードによって色々な影響を受けてきます。
日本は、海に囲まれているため、どちらかと言えば、ヨードを取り過ぎていますので、日本人の場合は、甲状腺の腫瘍は比較的良性なタイプが多いと言われています。
それから、良性な腫瘍でもホルモンを異常に作る腫瘍がありますが、このようなタイプは、欧米に多いと言われています。
甲状腺は、腫れてくると前の方に出てきますので、手で触ると分かるようになります。
ほとんどの場合、しこりがあるだけで痛みなどの症状を伴いません。

 この腫瘍の治療は、良性と判断された場合大きさによって、2〜3センチ程度であれば経過を見るだけと言うこともあります。
甲状腺のしこりは、非常に小さい物を含めると、かなりの頻度で見られます。
それを全て取ると言うことは大変なことですから、一応、今は、経過を見るために超音波の検査を行います。
超音波検査は、触って見る以上に大きさや周囲との関係などがよく分かります。

 中には、腫瘍に液が溜まっていることがありますので、その液を抜いてやることで、その後は、大きくならないと言うことです。
ただ、経過中に大きくなってきたり、怪しいと思われる物は組織の一部を取り、調べた結果、悪性の疑いが残ると言うことがあれば、手術をして取り除くことになります。
甲状腺癌の85パーセントは、経過が非常に長く、ゆっくりと進行します。
40〜50歳以後に発生する甲状腺癌は、予後が良好な物が多いと言われています。



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