一言でせきと言っても、その種類は様々で、背後に癌や結核など、重大な病気が隠れている場合もあります。
せきには、痰の出るせきと、痰の出ないせきがあります。
医学用語では、せきのことをせき嗽と言います。
そして、痰の出ないせきを乾性せき嗽と言い、痰の出るせきを湿性せき嗽と言います。
乾性せき嗽は、気管支が刺激されて、その刺激によって出るせきで、喉の炎症や喘息、肺の腫瘍や血圧の薬の副作用などで出ます。
湿性せき嗽は、蓄膿症などがある人に多い痰の出るせきで、気管支拡張症や慢性気管支炎などで、黄色い痰(膿性痰)を伴ったせきです。
痰にも、色々あって、その色によってどのような病気かを判断することができます。
黄色い痰が出ると、菌の感染がある病気が考えられますし、透明な痰は、病気とは関係のない痰で、気管支に入ったホコリや、異ものを外に出すために出る痰です。
したがって、黄色い痰や血の混じった痰は要注意です。
せきは、時間帯によっても出方が違いますから、せきの出る時間帯で、ある程度、病気を判断することができます。
黄色い痰の出るような場合は、夜中に、そのような痰が溜まっていますから、朝方から午前中にかけて、それを出すためにせきが出ます。
喘息系統の人は、夕方や夜中、早朝にせきが出ます。
そして、マイコプラズマの場合は、夜、寝床に入ってから、コンコンとせきが出ます。
マイコプラズマと言うのは、ウイルスと細菌の中間に位置する大きさで、ウイルスでもなく、細菌でもない病原体で、風邪の原因の一つです。
風邪のせきは、1週間〜2週間で治ってしまいますが、それ以上続くような場合は、単なる風邪だけではない場合もあります。
子どもや、若い人の風邪の場合のせきは、ほとんどが、このマイコプラズマによるものです。
一方、50〜60代で、特に男性のヘビースモーカーの人が、せきが頑固に出て、血痰が伴う場合は、肺癌などの危険性が高くなります。
次は、喘息についてですが、日本人に限らず、世界中で多い病気です。
日本では、全人口の4〜5パーセントの人が喘息と言われています。
喘息は、せきよりも、ヒューヒュー、ゼーゼーと発作的に急に息苦しくなる病気です。
その中で、せきだけが出る、せき喘息(タフバリアントアズマ)があり、この喘息は、発作性もなく、1日中せきをしている状態です。
基本的には、どちらも原因は同じです。
猫やダニのアレルギーで起きることもありますし、原因の分からないものもあります。
全てのメカニズムは、まだよく分かっていませんが、喘息は、アレルギー性の代表的な病気で、多くは長期に渡る治療が必要になります。
最近は、ステロイドの吸入療法で、治療成績が向上してきました。
発作が起きたときは、点滴や注射をしますが、普段は、吸入ステロイドを中心に治療を進めていきます。
この治療を1ヶ月ほど続けると、症状は、すっかり良くなりますが、季節が変わると、また出てくることがあります。
せき喘息の場合は、気管支が狭くなっていますので、吸入ステロイドよりも、気管支拡張剤を使う方が効果があります。
両親のどちらかが喘息を持っていると、その子どもも喘息になりやすいタイプと、或る日、突然、中高年でなる喘息があります。
これは、マイコプラズマの風邪の後に起こる場合もありますが、ひどい気管支炎の後に、突然起きます。
現在のところ、その原因は、まだ良く分かっていません。
また、血圧を下げる薬を飲んでいる人で、特に、女性に多いのですが、その中で、ACE阻害剤を含む薬を飲んでいる人に、副作用として、喘息のようなせきが出ることがあります。
この場合は、ACE阻害剤の入っていない降圧剤に換えると、3日ほどでせきは止まります。
我々は、せきと言うと、すぐに風邪をイメージしますが、風邪の中には、肺炎を起こすものもありますので注意が必要です。
肺炎を起こす風邪で代表的なものは、マイコプラズマとクラミジヤニューモニェーがありますが、どちらも、とても多い風邪です。
マイコプラズマの場合は、若い人に多く、夜寝てから、コンコンとせきが出るのが特長です。
クラミジヤニューモニェーは、クラミジヤには、色々あり、その中の1つです。
これも、マイコプラズマとほぼ同じで、せきが出て肺炎を起こすことがあります。
普通の風邪と区別するのが難しいですが、普通の風邪の場合は、1週間〜十日ほどで治ってしまいますが、マイコプラズマやクラミジヤニューモニェーの場合は、重篤に陥ることがあります。
症状は、普通の風邪と似ていますが、せきが強いのが特長です。
次に、その治療法です。
風邪の治療薬として、セハラスポリンと言う薬をよく出されますが、ところが、マイコプラズマやクラミジヤニューモニェーには、全く効果がありません。
効果のある薬は、少し古い薬ですが、テトラサイクリンやマクロライドなどがあります。
治療をしているのに、いつまでもせきが出てなおらない場合は、マクロライドのような薬に換えて見るのも一つの方法です。
せきは、肺癌や結核でも出ます。
肺癌にも2通りあり、肺の太い気管支にできる肺癌と、肺胞にできるものがあります。
この肺胞にできる癌の場合は、比較的レントゲンによく写りますが、気管支にできる癌の場合は、レントゲンで写らない場合もあります。
ですから、ヘビースモーカーの人は、痰の検査を受けることも大事です。
痰を調べることで、様々なことが分かります
次に結核についてです。
結核もせきを伴う病気で、わが国では減少傾向にありましたが、数年前頃から減り方が少なくなっただけでなくて、反対に上昇傾向になりました。
その理由は、昔、結核が流行した時代に、その時に感染しても発病しなかった人が、今も生存しているからです。
一方、結核が減っている時代に感染しないで、免疫もなく育った若者が増えているのです。
そのような中で、老人の結核の保菌者の人から、免疫のない若い人に感染していることが、結核の増加に繋がっている原因の1つと言われています。
これは、結核に対する診断の遅れが、1番の問題点です。
結核でありながら、風邪か他の病気と考え、結核の患者が、結核菌をバラ撒いていたことになります。
結核の症状は、風邪の症状に良く似ていて、微熱があり、せきをして、痰も出ます。
しかし、中には全く症状が出ないこともあります。
風邪と違う点は、症状が全くでないと言うことが長く続くと言うことです。
結核は、レントゲンで見るとすぐ分かります。
自分では気が付かない内に、治った跡が見つかることがよくあります。
このような場合も、保菌者になりうるのです。
このような人が、年をとって免疫力が落ちてきたり、糖尿病、リュウマチなどで、ステロイドホルモン薬を飲むことによって、免疫力が下がると、昔から持っていた結核菌が、再び活発化してしまうことがあります。
結核は、怖い病気には変わりありませんが、現在では、非常に良く効く薬ができましたので、長期に渡って入院すると言うようなことはなくなってきました。
どんな病気でも、日頃から免疫力を落とさないように、充分な睡眠と、適度の栄養を取ることが大切です。