肥満していること自体が病気と言う訳ではありませんが、肥満度が高くなったり、肥満になることで病気を伴ってくると病気と言うことになります。
肥満になる原因を、簡単に説明します。
食物が体に入ると、エネルギー源になります。
摂取エネルギーと消費エネルギーが同じであれば、一定の体重を保つことが可能ですが、肥満の原因としては、摂取エネルギーが過剰になるか、あるいは、消費エネルギーが少なくなった時に余分なエネルギーが貯蔵されて肥満になります。
近年、食生活が欧米化されてきて、脂肪分の多い食物を多く取るようになってきたことと、乗りもの社会になってきたり、家庭が電化されたりして、消費されるエネルギーが少なくなってきたことで、エネルギーが、どうしても過剰になってしまいます。
肥満は、この30年で約4倍に増加しています。
年令的には、男女で少し異なりますが、男性では20歳代から始まり、女性では美容に気を付けている性なのか40歳過ぎから多くなっています。
太る原因は食べ過ぎと言いましたが、消費するエネルギーに比べて、過食が続いた場合や寝る前に沢山食べて、すぐ寝てしまうと言うような、夜食症候群、それから、食事と食事の間に間食を取り過ぎると言うようなことが原因と考えられます。
肥満の多くは、単純性肥満、または、1次性肥満と言われ、エネルギーの取り過ぎによるもので、肥満の90パーセントがこれに当たります。
残りの10パーセントは、他に原因があって肥満になるもので、それを2次性肥満と呼んでいます。
これには、内分泌性肥満として、ステロイドホルモンが過剰に出るような状態とか、甲状腺ホルモンが低下してしまう症状の肥満を言います。
いわゆる、ホルモン異常が原因でなる肥満です。
それから、視床下部性肥満があります。
視床下部には食欲中枢があり、そこに、脳腫瘍ができたり、炎症性の病気、外傷などがあると肥満になります。
その他にも、遺伝性肥満と言う肥満があり、これは、特殊な遺伝子の異常のために肥満になったり、その他に、知能低下性腺機能低下などの様々な症状を示す症候群があります。
また、最近になって、肥満遺伝子が発見され、主に、脂肪細胞から、その遺伝子によってレクチン物質が血液中に放出され、それが食欲中枢に働いて肥満になると言うことが、少数ですが見つかっています。
それから、薬剤性肥満があって、これは、抗生新薬とか、副腎皮質ホルモンなどを飲んでいる人に起こります。
2次性肥満は、その原因が取れれば肥満が解消される肥満です。
次は、肥満の見分け方です。
肥満のない20歳代の男性の体組成を見ると、体重の60パーセントが水分で、17パーセントが筋肉などの蛋白質、5パーセントが骨などの灰分で、残りの18パーセントが脂肪組織と言われています。
肥満とは、この脂肪組織が多くなる状態を言います。
脂肪組織の計り方には色々あって、その1つに体密度法があります。
体比重を計って、それで推測するような方法とか、自然界に存在する放射性同位元素(カリュウム)などで計る方法などがありますが、これらは非常に複雑ですから、実際には、もっと簡単な方法が用いられます。
1番多く用いられているのは、標準体重法と言う方法です。
表になっていて、1番脂肪率の低い体重を標準体重としています。
この標準体重の計算の仕方には色々あり、主に、身長と体重から出す方法で、これを体格指数と言い、これにも色々な方法があります。
身長から、100を引く方法は、ブローカー指数と言います。
これに、0.9を×方法をブローカー変法、または、桂の式と言います。
しかし、この方法は、身長の高い人と低い人ではかなり誤差が出ます。
現在では、国際的に使われている、BMI(ボディーマスインデックス)と言う方法が多く使われています。
これは、メートルで現した身長の2乗に22をかけたものが、男女とも、その人の標準体重になります。
例えば、身長が1メートル60センチの人ならば、1.6×1.6×22=56.32と言う計算になります。
そして、自分の体重が、この答えの+−10パーセント以内であれば、標準体重として正常値ですし、+10パーセントを越えると肥満傾向、+20パーセントを越えると肥満としています。
+30パーセント以上になると、様々な他の病気を合併することが増え、病的肥満と呼ばれることも多くなります。
若い人の場合は、皮下脂肪型肥満が多いのですが、年を取ってくると、内臓脂肪型肥満が増えてきます。
これは、様々な生活習慣病を合併しやすくなることから注目されています。
肥満の中には、心配しなくてはならない肥満があり、病的肥満、または、肥満症と言われる状態です。
肥満度が+20パーセント以上の人で、肥満に原因する健康障害があるような人や、その可能性が大きい人ですが、多くは、+30パーセント以上の人の中に、そのような人が多いようです。
それから、+10〜20パーセントの間でも、健康障害を持っているような人や、上腹部型肥満、これは、内臓脂肪型肥満が多いのですが、このような人が病的肥満と言われています。
肥満症から来る合併症には、糖尿病がありますが、肥満のない人に比べて約5倍も多いと言われています。
高血圧も2.5倍、高脂血症ですが、これは、中性脂肪、総コレステロールの上昇、善玉コレステロールの低下などが見られます。
それから、肥満傾向になると、動脈硬化になる可能性も高くなってきますし、脂肪肝の比率も高くなってきます。
これが持続すると、肝硬変にもなりやすくなります。
その他にも、胆石症や尿酸値が高くなり、痛風になる人が増えてきます。
それから、呼吸器の障害として気道が狭くなり、睡眠時無呼吸症候群になって、突然死をすることがあります。
また、体重が重いために変形性の骨関節症になり、腰や膝が痛くなったりする人が多くなります。
癌の場合は、女性では子宮癌や乳癌、その他に、大腸癌、胆道癌も多くなります。
肥満の女性には、不妊症の人が多いと言われていますが、それは、肥満になると、副腎皮質ホルモンの分泌が過剰になってきます。
このホルモンには、性ホルモンが含まれていて、それが、脂肪組織に蓄積され、血中に少しずつ出てきて、それで、いつも女性ホルモンが過剰な状態にさらされています。
それが性周期に影響を与えるために、不妊症になると考えられていますし、このホルモンは、子宮や乳腺に働いて癌ができるとも言われます。
今まで上げた合併症は、直接死に至ると言う訳ではありませんが、太っているために、手術が難しいこと、縫合不全などが起こり亡くなってしまうこともあります。
それから、蛋白尿を示す人も多く、慢性腎炎で亡くなる場合、脳出血、心筋梗塞で亡くなる人も多くなっています。
最近は、ダイエットに励む人も増えてきましたが、間違ったやり方で栄養障害を起こす場合も少なくありません。
特に、蛋白質を普通の人と同じくらい(標準体重1キロ当たり1〜1.2グラム程度)は取った方が理想ですし、糖質は、ある程度制限して、脂肪は極端に制限し、1日20グラムくらいが目やすです。
最後に、肥満症の治療についてです。
肥満症の治療法には、次のような方法があります。
第1に食事療法、次に運動療法、行動修整療法、薬物療法、外科的療法などです。
一般的には、食事療法と運動療法が主になります。
食事療法ですが、通常の人は1日2000〜2400カロリー程度のエネルギーを取っていると思いますが、高度の肥満で入院が必要なくらいの肥満になると、600〜1200カロリー程度に減らして、治療をすることもあります。
最初は、空腹感があって大変ですが、すぐに馴れます。
このくらいの食事を続けていると、4週間ほどで約4〜5キログラムほどは普通は痩せます。
しかし、これは入院しての話です。
退院して、しばらくすると食事療法が守れずリバウンドして、基の体重に戻ってしまう場合も少なくありません。
女性で1200カロリー、男性で1600カロリー程度を守らないと痩せることはできません。
ですから、今までの食事の量の3分の2くらいを目やすにします。
食べる内容ですが、前述したように、蛋白質は普通の人と同じで、炭水化物(糖質)は、100グラム程度、これは、約400カロリーになります。
1番抑えるのは脂質ですが、全く取らないのは逆効果で、1日20グラム程度にします。
この治療中は、果物も控え目にします。
果糖は単糖類ですから、直接吸収されるからです。
アルコールも飲み過ぎると、中性脂肪が増えてきますから、これも飲まないようにします。
食事療法のやり始めは、体重も順調に下がってきますが、だんだん体の方で基礎代謝が減ってきて、体重の減り方が悪くなってきます。
そこで、必要になってくるのが運動療法です。
減食療法に馴れてきた時点で、運動療法を取り入れ併用するようにします。
1日、1万歩以上歩くとか、速足の散歩なら約90分、水泳なら40分程度、縄跳びでは60分を目やすにします。
これは、時間を何回かに分けて行なっても効果には差がないと言われています。
外科的療法は、極端な肥満な場合で、食事療法や、今までの治療で十分な効果が得られなく、かつ、本人が希望する場合に行なわれます。
昔は、短絡術と言って、小腸を短くしてやって栄養を取りにくくする方法がありましたが、様々な副作用が出てきますので、今ではほとんど行なわれていません。
それに代わって、最近では胃の縮小術が行なわれるようになってきました。
胃を小さくすると、すぐに満腹感が出てきて、1度に沢山食べられなくなります。
いずれにしても、過度の肥満症は、日頃から食事に気を付けなければなりません。
間食をしない、規則正しい食生活を守っている限り、肥満になることはほとんどありません。