脳と心臓の病気
狭心症と心筋梗塞


 現在、わが国の死亡率の第1位が癌で、第2位が心臓病、第3位が脳卒中と言われています。
戦前は、脳卒中が非常に多かったのですが、これは、実は、栄養状態が悪くて血管が脆かったのに加え、塩分を多量に摂取し、そのため高血圧がおおく、とても血管が破れやすかったのです。
上記の理由から、戦前 戦後は脳卒中が死亡率の第1位だったのですが、その後、食生活が改善され、数が減るようになり、その代わりに癌と心臓病が増えてきました。

 その原因は、食生活が欧米化してきたことと、人口が非常に高齢化したことが上げられます。
心臓病を起こす原因になる動脈硬化は、年を取るほど多くなって行きます。
心臓は、体中に血液を送るポンプですが、一生の間、休むことなく働き続ける臓器です。
心臓は、大半が筋肉でできており、筋肉が動くには、常に酸素を補給していなければなりません。

 心臓の病気には、色々ありますが、その中で、1番多いのは虚血性心疾患です。
これは、心臓の筋肉に酸素が行かなくなる病気です。
 そもそもの原因は動脈硬化ですが、動脈硬化で細くなった血管が、何かの原因でつまってしまい、そこから先に血液が流れなくなり、その結果、心筋梗塞になってしまいます。

 これは予断ですが、一生の間でどんな大きさの哺乳動物でも、脈拍が20億回で、寿命となると言われています。
人間の場合、平均1分間に70回とすると、1日約10万回鼓動します。

 虚血性心疾患には、狭心症と、心筋梗塞の2つがあります。
狭心症は、何かの拍子に胸がグーッと苦しくなる病気です。
これは、心臓の筋肉が要求している量に足りるだけの酸素が供給されない、つまり、血管が細くなったり、血管が痙攣を起こして血液の流れが止まったりすると、心臓の筋肉が酸素不足になって苦しくなります。
このようなことが発作的に起こる心臓病を、狭心症と言います。

 心臓を養っている血管を冠状動脈と言い、この血管が、動脈硬化を起こすと、だんだん細くなって、安静時にはどうにか足りるだけの血液が流れていても、急いで階段を上がったりすると、心臓が早く鼓動し、その結果、心臓の筋肉が酸素不足を起こして苦しくなります。
 狭心症には、このように運動をした時に起こる狭心症と、もう1つは、何もしないのに血管が痙攣を起こし、そのため、血管が細くなり、苦しくなる場合があります。
これは、早朝によく起きます。

 このように、狭心症には2つのタイプがありますが、いづれも、胸が苦しくなるのは同じです。
狭心症を起こすと、胸がグーッと苦しくなると共に、冷汗をかきますが、普通は、10分ほどで発作が治まります。
 この狭心症には、ニトログリセリンと言う特効薬があります。
これは、血管を拡張させる働きをする、舌下で溶かす薬です。

 一方、心筋梗塞は、血管が完全につまって、血液の流れが途絶えてしまう病気です。
つまった場所から先に酸素が行かなくなるため、組織が壊死を起こします。
心筋梗塞は、狭心症と違い、かなり大変な病気です。
この場合の汗は、しぼるほどかきます。

 狭心症の治療は、血管を拡げるような治療をし、心筋梗塞の場合は、血栓を溶かすような治療をします。
狭心症の治療には、薬で治す場合と、PTCAと言って、風船を膨らませて狭くなった血管を拡げてしまおうと言う方法です。
もう1つは、バイパスを作ると言う方法です。
最近の狭心症の治療には、PTCAが多く使われているようです。

 心筋梗塞は、狭心症と違い、処置が遅くなると、たちまち命に関わってくる危険性のたかい病気です。
死亡率は3〜4割もあるとも言われ、非常に怖い病気です。
狭心症より遥かに症状が強く、ものも言えないほど苦しいとか、死ぬのではないかと思ったなどの表現をします。
また、大量の冷汗をかき、意識が薄れてくる、あるいは、失禁を起こす、時には、呼吸困難を伴うこともあります。

 そのままほって置くと、数時間〜1日以上もずっと苦しい状態が続きます。
実は、心筋梗塞その物で死亡するよりも、合併症で亡くなる例が多いと言われています。

 1番怖い合併症は、心筋梗塞になって、まもなくして出てくる不整脈です。
心室細動が最も怖い不整脈で、これが起きると、ほとんど心臓が止まった状態になります。
そして、この心室細動で、死に至る場合が1番多いのです。
 その次に多いのが、心臓破裂です。
心筋梗塞を起こすと、心臓の筋肉は豆腐のように柔らかくなってしまい、心臓が収縮した瞬間に破裂し、即死状態で亡くなります。
心筋梗塞には前触れがありますが、ほとんどの場合それに気がつかないようです。

 狭心症のところで述べたように、何もしないでいる時に胸がグーッと苦しくなると言う状態が、正に心筋梗塞の前触れそのものです。
もう1度、心筋梗塞の前触れを述べると、静時に冷汗が出て、胸がグーッと苦しくなったら、それが心筋梗塞の前触れですから、急いで専門機関に行くことをお進めします。

 運よく心筋梗塞が治った場合でも、後遺症が残る場合があります。
1つは、心臓のポンプとしての力が弱くなります。
2番目は、狭心症が残ることがあります。
3番目に、怖い不整脈が残ることがあります。
ですから、心筋梗塞を起こした後は、必ず、どんな後遺症が、どの程度残っているかを知っておくことが大切です。
治療を続けている内に、日常生活に支障を起こさない程度まで快復することができるようになります。

 最後に、心臓病の予防についてです。
予防法を考える時に、動脈硬化の危険因子と言う考え方があります。
動脈硬化を進行させる、あるいは、虚血性心臓病を発症させるような原因があり、その中で、1番有名なものが、コレステロール値が高いこと、2番目が、高血圧です。
これも、動脈硬化を進行させます。
 3番目が糖尿病で、これも、動脈硬化の非常に重要な促進する因子になるものですし、また、糖尿病自体も、様々な合併症があります。
その代表的なものに、腎臓が悪くなったり、目が見えなくなったり、あるいは、神経障害が起こるなど、とても恐ろしい病気の1つです。

 4番目は、喫煙です。
タバコは、皆さんご存知のように「百害あって一里なし」と言われるくらいで、ニコチンや一酸化炭素は、動脈硬化を促進すると共に、肺の病気、慢性気管支炎、肺気腫、肺癌などが非常に発生しやすくなります。
タバコを一本吸うと、血管が30パーセントも収縮します。
それでなくても、狭くなっている血管が、タバコを吸うことで、さらに狭くなり危険度が増します。

 それから、運動不足も動脈硬化の危険因子です。
適切な運動をすることが、動脈硬化を予防すると言うことになります。
どのような運動が良いのかですが、有酸素運動と言って、酸素を取り込みながら、長時間続けることのできる運動です。

 その代表的なものに、速足で歩くことや水泳があります。
頻度は、30分くらいの運動を1週間に3回以上が理想です。
歩く速さは、歩きながら息切れを感じない程度が適当な速さです。

 次は、酒が予防になると言う話です。
最近、アカワインが体に良いと言うことで、ワインを飲む人が増えてきました。
フランス人は、肉をたくさん食べるのに虚血性の心臓病が少ない理由は、赤ワインに含まれるポリフェノール物質が、動脈硬化を予防する効果があることが分かったのです。
とはいえ、何事も適量が大切で、飲み過ぎは禁物です。



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