眠れないということは、病気の範疇に入る場合もありますが、そうでない場合もあります。
本人が眠れないことを気にして、そのために、日中きちんと生活ができないというようなことがある場合には、本人にとってはつらいことです。
一口で眠れないと言っても、なかなか眠りにつけない、一端、ねても何回も夜中に目がさめると言うような場合もあります。
朝早く目が覚めてしまい、その後、眠れないなど様々です。
ただ、眠れないというのではなく、どんなふうに眠れないかをはっきり言うことが大事です。
眠りの深さや、眠れないパターンが、どんなパターンであるか、その背景にある病体が違いますので、どんなふうに眠れないのかをはっきりさせることが、正しい診断と治療に結びつくことになります。
眠りにはいれないと言う場合に、1番多いタイプは、神経質性の不眠や、精神性の不眠 と呼ばれるものです。
これは、非常に多いタイプで、眠ろう、眠ろうとあせりますが、なかなか眠れないのです。
明日、遠足があるとか、運動会があるなどで、早く寝なければと思っても眠れないタイプが、この寝付きの悪いタイプです。
それから、神経質性の不眠という場合は、慢性的に不眠の状態を続けるタイプです。
これは、本人にとって『寝る』ということは、床に入ると、すぐぐっすりと寝なければならないと思っているタイプの人に多いです。
布団にはいっても、なかなか眠れないため、あせって、寝よう寝ようとすると、それが、かえって緊張感を招き、眠れなくなり、不眠が続いてしまうのです。
このようなタイプの人は、眠りに対して、非常に決まり切った理想のイメージを持っています。
寝るときには、1日仕事をして、疲れたから寝ると言うのが大半ですが、神経質性の不眠の人は、寝ることに一生懸命になってしまって、それが、眠れない原因になってしまうのです。
このタイプの人に、不眠の状態になったきっかけを聞くと、以前、睡眠不足で仕事がうまく行かなかったというような悪い経験や、チョットした出来事があって、それが心配で眠れなかったと言うようなことを繰り返すのが特長です。
また、いったん寝ても途中で目が覚める場合ですが、尿意をもようして目がさめた場合は、またすぐ寝てしまうのが普通ですが、いったん目がさめると、なかなか寝つかれないと言うようなタイプがあります。
このようなタイプの人は、途中で目がさめるのが問題ではなく、その後、眠れなくなるのが問題です。
それから、朝早く目が覚める場合ですが、年をとると、正常でも朝早く目が覚めるようになりますし、欝病などがあると、そのような状態になることも多いです。
次に、眠れない時の治療についてです。
場合によっては、睡眠日誌という形で、何時頃布団に入って、何時ころ寝ついて、翌日は何時ころに起きたかなどの記録を付けます。
これは、正しい不眠の診断のためには、とても大事なことです。
眠れない、眠れないと言っても、寝つきが悪いだけで、朝遅くまで長く寝ている場合もありますし、病気のために、朝なかなか起きれないこともあります。
診断をきちんとつけるためには、睡眠のパターンをはっきりさせることが必要と共に、昼間の状態を記録することが、より正確な診断に繋がります。
最近は、脳波を見ることで、睡眠の度合いを調べることができるようになりました。
睡眠には2種類あり、1つは、浅い眠りなのか、深い眠りなのかの眠りの深さが分かります。
もう1つは、睡眠の質で、これにも2つあり、1つはレム睡眠と呼ばれるもので、急速眼球運動という英語の頭文字を取ったものです。
これは、赤ちゃんを観察していた科学者が見つけたもので、寝ている時、目がキュッキュッと早く動くのです。
この時には、普通の眠りと違う眠りで、呼吸が乱れるとか、心臓の脈拍のリズムが崩れるなど、いろいろなことが起こります。
いわゆる、自律神経系の変化が起こります。
このような特殊な睡眠で、特長的なことは睡眠のときの夢と関係があると言われています。
レム睡眠の時は、夢を見ていると言うことで、非常に特殊な睡眠です。
もう1つは、ノンレム睡眠といって、これは、眼球運動のない睡眠です。
レム睡眠は、眠りの深さに関係がないのに対し、ノンレム睡眠のほうは、どちらかと言うと、眠りの深さに非常に関係しています。
これは、ポリソムノグラフで脳波を取ってみるとよく分かります。
これで見ると、眼球運動や脳波、汗の状態や心電図まで、1度に分かってしまいます。
これはレムの時期、これはノンレムの時期と言うこともよく分かります。
若い人で、朝早く目が覚める人もいますが、短い睡眠でも、全く苦痛に思っていないと言う場合もありますので、実際には、眠りが短いことだけでは病気とは言えないのです。
ナポレオンのように、短い睡眠時間で十分というタイプもあれば、8時間以上寝ても、まだ足りないというタイプの人もいます。
ですから、何時間以上眠らなければならないと、あまり決めて考えないほうが良いのですが、眠るということは、脳と体を休ませることですから、ある程度の睡眠は必要です。
最近では、睡眠のリズムを作るのに、光療法という治療法が使われるようになりました。
これは、かなり強い明かりにさらして、睡眠覚醒リズムといって、起きている時と、寝ている時のリズムを調整するものです。
睡眠の状態は、年令と共に変化して行くものです。
赤ちゃんの場合の睡眠ですと、1日中寝ているような状態ですが、それが、4歳、5歳になるに従って、昼寝もしなくなって、夜と昼間の区別が、はっきりしてきます。
大人になるに従って、睡眠時間も8時間程度に固定されて、めり張りがはっきりしてきます。
このように、睡眠のタイプも成長と共に変化してきますが、年をとって行くと、今度は、眠りと覚醒、つまり、寝ている時と、起きている時のめり張りが、だんだんとなくなってくるようになり、子どもの頃の睡眠パターンに近付いて行くといったようなところもあります。
これは、年令と共に起こる変化で、年をとるに従って睡眠そのものも浅くなり、夜中に、ときどき目が覚めると言うことが多くなります。
寝付きは早くて、9時頃には、もう眠くなり寝てしまうのですが、朝早目に目がさめてしまいます。
もう1つの特長は、日中も、コタツなどでコックリしているような感じで、昼間も眠くなってウトウトするといったような変化が起こります。
この変化は、年令と共に起こる変化で、それ自体は、病気ではありませんから、特に、心配することはありません。
最近、よく聞く言葉に睡眠時、無呼吸症候群と言うのがあります。
これも、お年寄りに多い病気で、ある報告によると、60歳を過ぎると2〜3割の人に、みられるそうですが、これは、夜寝ているときに呼吸が一時的にとまってしまい、しばらくすると、再び深い呼吸を繰り返すと言うことで、寝ている間に、呼吸が止まっていることが、けっこうあります。
それで、睡眠時無呼吸症候群が注目されるようになりました。
どんな問題が伴うかですが、呼吸が止まると酸素が不足しますので、それを取り戻すように、今度は、深い呼吸が始まります。
その時に、眠りが浅くなります。
このようなことが、一晩中続き、浅い眠りだけが夜続いていることになり、昼間、眠くてつらいとか、頭がボンヤリしているなどの状態になり、日常生活にも影響を与えるようになることもあります。
もう1つは、呼吸が止まるために、心臓に負担がかかったり、呼吸機能が悪くなったりしますので、循環器系や呼吸器系の病気、高血圧に繋がるということから、最近注目されています。
原因は、年をとってくると喉の柔軟性がなくなったり、狭くなってきますので、夜寝たときに閉じたようになり、呼吸が止まってしまう気道の部分の問題と、もう1つは、呼吸は、脳の命令で行なわれていますから、脳の機能がだんだん落ちてきたために起こります。
このように、中枢性と、末梢性の二つがあることが分かっています。
ひどくなると、治療が必要になりますが、薬を使う場合や、特にひどい場合は、喉が閉じないような特別な装置を付けます。
簡単な方法としては、横向きに寝る工夫をすると、気道の閉じるのが少なくなりますので、案外効果があります。
また、睡眠時無呼吸症候群は、いびきをかく人に多く、いびきが止まることで発見も容易になります。
いびきをかくのは、気道が狭くなっていることを意味しています。
そして、太っている人に多く、酒を飲んだときに、特に強く出るという特長があります。
そのような人は、根本的な治療として、まず、やせることと、アルコールを控えることが大事です。
最後に、治療法についてです。
最近では、睡眠層遅延症候群と言われる症状があり、これは、睡眠と覚醒のリズムが、普通の人と違っていて、夜中の12時や1時になっても、なかなか眠くならないのです。
そして、3時、4時になり、やっと眠るのですが、今度は、朝7時、8時になっても起きることができず、ときには、お昼頃まで寝てしまうこともあり、全体の睡眠の時期が後にずれてしまうことから、これを睡眠層遅延症候群と呼んでいます。
最近、朝起きれないと言うタイプの人に、このような人が増えています。
このような人が、先に述べた睡眠日記を付けると、とてもよく分かります。
このような場合には、光療法を行い、睡眠のリズムを固定させて、早く眠くなって、朝も早く起きれるようになるリズムの調整をします。
生活環境が悪いために起こってくるようなタイプの人は、少し入院して環境を調整してやると、直りも早いです。
もう1つは、眠りりは、脳の働きですから、脳の仕組みそのものが少し障害を受けている場合は、治療が非常にやっかいで、ときには、早く眠るような睡眠薬を使うとか、最近は、ビタミンB12などのビタミン剤が効くのではないかと言う研究があり、様々な方法がとられています。
中には、このような方法でも、なかなかうまく治療ができない難しいケースもありますが、このような場合は、どうして、夜昼が逆転するのかを最初から根本的なものを調べる必要があります。
病院には、睡眠科という科はありませんから、精神科でも診てくれますし、睡眠時無呼吸症候群の場合は、耳鼻科が専門です。