内臓の病気
腎臓にできる癌


 腎臓は、非常に高度に分化した臓器で、ここにできる癌は、多彩な像をもっています。
したがって、一言で腎臓癌というのではなく、その中には様々な種類の組織像や、生物学的な属性を持ったものができ、それが混在した形で腎臓に1つの臨床癌として形成されます。
治療に関しても、相当注意深く計画を立ててやって行かないととても難しい病気です。
1980年前後から、健康診断などで、腎臓の超音波やCTスキャンなどで検査をして、偶然に見つかる症例が増えてきており、全体の半数以上が見つかっています。

 腎臓癌の要因は様々考えられますが、食生活や生活習慣の中で、腎臓癌と直接結びつくという要因は見つかっていません。
腎臓癌自体の発生は、腎臓の中の糸球体にできる癌ですが、遺伝子的な異常ということで、発生の引き金になる要因が分かってきています。
但し、、もちろんのこと、腎臓癌は様々なパターンを持っていますので、特殊の遺伝子の異常によって、前部をカバーするというところまではいっていません。

 遺伝子的な研究は、ずいぶん進んできており、細かいところの仕組みを調べることができるようになっています。
したがって、ごく限られた狭い部分野の異常まで、細かく調べることができますが、遺伝も1つの要因であり、それだけで、解決できるというものではありません。
 腎機能が悪くて、人工透析をやっている人は沢山いますが、そのような人には、腎臓癌の発生率が高いといわれています。
それ以外には、直接、腎臓の病気と腎臓癌が結び付くということは分かっていません。

 腎臓は、わずか100〜120グラムの臓器ですが、機能は非常に多く、血液を漉して余分なものを尿として外に出すだけでなく、その大本になるものの、大半を再吸収します。
しかも、体の中の酸と、アルカリ(酸塩基)のバランスも取っていますし、ホルモンを出して、体内の様々な細かい調節をしたり、場合によっては、増血器に直接作用するようなホルモンを出すなど、非常に高いレベルで数多くの役目を持っています。
 腎臓癌の患者は、治療を開始する時点で、約25パーセントの人はすでに転移を持っています。
幸運にも、転移がない場合でも、手術後にはその半数の人は転移すると言われていますから、腎臓癌は非常に転移しやすい癌の1つと言えます。
転移先で、1番頻度の高い臓器は肺です。
次に骨、それから肝臓、あるいは、リンパ節や脳、膵臓にも転移します。
これらは、典型的な転移の経路ですが、これ以外にも、数は少ないですが、急に目に転移したり、女性では、突然膣に転移したり、膀胱や指先の骨に転移したりすることもあります。

 次に、腎臓癌の初期症状についてです。
どの癌にも言えることですが、症状が出た時は、それを初期と言う言い方はできず、その時には症候癌と言って、症状が出てくると、もう初期ではありません。
ですから、何も症状が出ていない時にできるだけ早く見付けるのが、何よりも大切なことです。
 症状で、重要なことは、やはり、尿に血が混じる血尿がある場合です。
血尿にも2種類あって、1つは、目で見てはっきり血液が混じっていることが分かる状態の血尿、これを肉がんてき血尿と言います。
もう1つは、尿を顕微鏡で検査して、その中に赤血球が混じっている場合で、顕微鏡的血尿と言います。
いずれにしても、このように血尿があれば、尿の通り道をきちんと調べます。
当然、腎臓は重要なチェックポイントになります。

 血尿そのものでは、通常は痛みは感じませんが、血液が固まって、尿管などに詰まると痛みを生じる場合があります。
1般的は症状がなくで、非常に危険な信号を出しています。
 腎臓癌は、1期〜4期の4つに分けられますが、その中にさらに、腫瘍の大きさの要因が入ります。
腎臓内にとどまっている状態を1期〜2期と言い、さらに、腎臓の外膜を越えて、周囲の脂肪にまで入ってくる状態や、場合によっては腎臓の上にある副腎にまで侵入してくる状態を3期、さらに、リンパ節に拡がってきたり、肺や肝臓などに遠隔転移してくれば、これは4期と言うことになります。
どの癌でも、早く治療すると治癒率が高いのは当たり前のことですが、腎臓癌の場合について言えば、腎臓の被膜の中に限局していて、しかも、腫瘍の大きさが4センチ以下であれば、非常に高い治癒率が得られます。
ただし、だからと言って100パーセント転移しないと言うことはありませんから、小さくても悪いものもあるのです。

 先ほど述べたように、症状としては、何らかの形で、尿路に血尿や、腎臓が腫れてきて、その癌がしこりとして触れる、あるいは、腎臓の痛みを感じるなど、このような3つの症状を尿路症状と呼んでいます。
このような症状は、2期、つまり、腎臓の腫瘍が、被膜を越えていくとか、あるいは、尿の流れていくパイプ(腎盂)に顔を出してくるという形になると、症状が非常に強まってきます。
そして、出血が固まってくれば痛みを伴ってきます。
その痛みは、背中の部位から、脇腹、それから、患側の下腹部にかけて、鈍い痛みから、疝痛発作の非常に強い痛みなど様々あります。

 また、転移があれば、尿路以外にも転移症状が出ます。
骨に転移すれば、骨を溶かしますので、病的骨折を起こして痛みが出ますし、肺に転移して、ひどく成れば血痰が出てきます。
頭に転移すれば、神経学的な様々な症状が出ます。
 このような転移症状以外に、尿路外症状があり、実は、これが1番やっかいで、体重減少、あるいは、夕人になると、37度代の発熱、食欲低下など、腎臓に腫瘍ができて、こんな症状が出るとは思えないような症状が出ます。
実際には、腎臓癌の中の17〜18パーセントが、このような症状で見つかっています。
ですから、内科医では、他の治療をして、腎臓癌は見逃してしまう事があります。

 次に、腎臓癌の検査の方法についてです。
基本的には、原発巣の部位で、どのように病気が進行しているかを調べる意味で、CTスキャンを行います。
これで、約8割くらいは分かりますが、1つの検査だけでは利点と、欠点がありますので、他の検査と併用して進めます。
それには、超音波診断を使うことが多いですが、CTスキャン以外にも、MRIなどを使って原発巣の診断を行います。
その結果、癌の疑いがある場合は、次は、転移がないかを調べるために全身の検査を行います。
正確な治療をするためには、これは、非常に重要なことです。

 やはり、先に述べたように、転移の可能性が一番高いのは肺ですから、肺の単純写真を撮り疑わしい場合にはCTスキャンで、さらに、細かく調べます。
また、骨にも転移しやすいですから、アイソトープ(放射性同位元素)を注射して骨の集積のパターンで、異常を見ます。
肝臓は、CTだけでも見れますが、超音波診断を併用して正確度を高めるために、このような、広範囲の検査を行ないます。
腎臓癌の場合、転移の発生原因は、だいぶん分かってきていますが、いくつものステップを踏んで、最終的に、転移と言う形で、癌ができ上がると考えられています。

 では、腎臓癌が、なぜ、肺に多く転移するのかと言うことですが、腎臓の静脈血(他の静脈血も同じ)は、まず、心臓に戻ります。
心臓から、すぐに肺動脈を通って肺に行きます。
肺からまた心臓にきますが、この経路では、肺に1番転移しやすいのが分かります。
しかし、不思議なことに、肺に転移せず、いきなり骨に転移したり、他の臓器に転移することもあり、このような転移のメカニズムはまだ分かっていません。
 検査で腎臓癌が発見された場合、その進行を予測するのは非常に難しいですが、特殊な腫瘍に関連する物質は、まだ腎臓癌では見つかっていません。
ただ、いくつかの炎症反応を見ることによって、ある程度癌の進み具合を把握することができます。

 転移は、いつでも起きますので、手術際にも、腎臓の動脈と、静脈を縛って、血流を止めてから腫瘍を取り出すというように、砕身の注意をはらって行なうのが原則です。
腎臓癌の1番の基本になるのは、腎臓の周囲の脂肪やリンパ節も含めて、摘出することですが、その時点で、すでに細胞レベルでは転移している事が考えられますから、摘出手術をしても、完治を望むのは難しい場合もあります。
 このようなことから、腎臓が取れる場合は取って、転移があれば転移の治療をするのが基本ですが、患者の全身状態が非常に悪い人、病院に来たとき、既に2臓器以上に転移し、多発性の転移を持っている人、あるいは、食事もとれないほど体力が落ちている人の場合は、腎臓の摘出は、かえって逆効果になることもあります。
このような場合は、、腎臓の大本のコントロールという意味で、腎臓の動脈に詰めものをして、血流を止めて腫瘍を少し弱らせる治療をします。
 腎臓の摘出後、傷の痛みなどが、かなり長く、人によっては数ヶ月も続き、日常生活の支障になることもあります。
手術をして、良くなったと思っても、1端、再発した場合には、その治療は非常に難しいものになります。

 次に、腎臓癌の治療についてです。
手術の他、現在、日本で保険の適応になっている腎臓の薬は2種類しかありません。
1つはインターフェロンで、もう1つは、平成11年4月からインターロイキンUと言う薬が臨床に使えるようになりました。
この2つの薬が、腎臓治療の中心になっています。
インターフェロン物質は、人間が外的な刺激、ウイルス感染や、風邪のウイルスに感染した時、体の中で自然に産製されて、それが産製されることによって、生体の免疫防御能を高めて、最終的に、それを殺し外に出してしまうと言う、非常に重要な物質です。
インターフェロン物質は、人間の免疫環境と非常に強い関係があり、免疫能力を高めてやって、腎臓癌の治療成果を高めることが目的です。

 インターフェロンには、α、β、γの3つがあって、人間のリンパ芽球や線維芽球、あるいは、免疫を司るTリンパ球と言うところで作られています。
しかし、それだけでは足りませんので外で合成したものを使用しています。
 一方、インターロイキンUは、インターフェロンのように直接癌に作用はないだろうと考えられていますが、インターロイキンは、白血球と白血球との間で、シグナルの伝達をするのに重要な物質です。
現在、インターロイキンは、1から18番まで分かっていますが、その中で、2番目のインターロイキンが、人間の免疫に非常に重要な、Tリンパ球を増やすと同時に、活性化すると言う意味で、非常に重要な物質と言われています。

 腎臓癌は、遺伝子的要素が強い癌ですから、これからは、遺伝子治療ということも必要になってきます。
アメリカでは、すでに、遺伝子治療の実用化に向けて実験も盛んに行なわれています。
日本でも、遺伝子治療の実験に取りかかったところですが、考え方にはいろいろあります。
インターロイキンの2番だけを沢山作らせるような遺伝子を組み込むとか、インターフェロンのγだけを沢山産製させるなど、免疫的機序が進む中で、その鍵になるような物質を産製させるような遺伝子を組込んでやると言う、免疫的な一面がある一方で、癌を抑制するという遺伝子もいくつかあって、それが、何らかの形で欠如しているために、癌としてできてしまうと言う考えもあります。
それでは、癌を抑制する遺伝子を組み込んでやろうと言う考えもできます。
これ以外にも、様々な考え方がありますが、癌のできるメカニズムは、単に遺伝子だけでかたずく問題ではありませんし、腫瘍も免疫も非常に複雑ですから、1つや2つの免疫的な調節をいじることによって、1部の患者には効果があっても、それが、全体をカバーするところまでは、もう少し地道な研究が必要です。
腎臓癌については、個々によってそれぞれが非常に異なっており、100パーセント絶対的な治療法は、まだ開発されていません。
腎臓癌の発生は、男性2.5に対し、女性1の割で発生しています。



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