腎臓の働きは、大きく分けて3つあります。
まず第1に、血液中に溜まった老廃ものの廃泄器官としての働きです。
体内に取り入れられた食べ物が消化され、栄養が吸収されると、血液によって様々な器官に運ばれていきます。
そして、利用された栄養の残りかすなどが、老廃ものとして腎臓に運ばれて処理されます。
しかし、食物の3大栄養素と言われる糖質、蛋白質、脂質があり、この内、糖質と脂質は利用されると、最後に、水と炭酸ガスなどの酸類を生み出します。
蛋白質は、さらに、チッ素化合物を生み出します。
ガスは、呼吸により肺からも廃泄されますが、このチッ素化合物質のほとんどは、腎臓から廃泄されています。
いわゆる、ふるいで漉すのと同じような働きをしている大切な臓器です。
第2には、体の中の内部環境を司る働きをしています。
塩辛いものを食べ過ぎると、のどが乾きます。
これは、多くとり過ぎた塩分を体の外に出すために、水分が必要になるからで、その信号は、腎臓から出て、脳が受け取り、水を飲むという行動になるのです。
逆に、1週間くらい塩分を取らなくても、尿中に出てくる塩分を、もう一度体内に戻して、再利用するという働きもあります。
このような働きは、食塩を構成するナトリュウムだけでなく、イオン物質と言われているカリュウムや、カルシュウムなども同じです。
また、体液の酸度などを水分と1緒に調節することも行なわれ、体内の内部環境を1定に保つ働きをしています。
第3は、様々なホルモンを分泌させ、体全体をコントロールする働きがあります。
これは、比較的新しく、ここ数十年くらいで分かってきたことですが、ホルモンの代表的なものが、血圧を上昇させるレニンというホルモンです。
この物質は血圧を上げる物質で、大出血を起こすとか、脱水といった水分不足で起こる、ショック状態のような時に、腎臓から分泌されて、いくつかの過程をたどり、血圧を上げて元に戻すという作用をします。
また、逆に、ブラジキニンという血圧を下げるような物質も腎臓から出ています。
さらに、血液の元になる赤血球を作るのに欠かせない、エルソロポリチンというホルモンを分泌するということも最近分かってきました。
腎臓が悪くなってくると、赤血球が減ってくるということは100年も前から分かっていたことですが、その理由が分かったのは1990年代のことです。
骨を作るのに重要なビタミンDですが、ビタミンDは、口からも入りますが紫外線によっても作られます。
しかし、ビタミンDは、体に入ってすぐ骨を強くするという作用はありません。
実際には、腎臓で活性化され、そこで初めてビタミンDとしての作用ができるのです。
子どもの頃から、腎臓に強い障害があると、成長が遅れてしまいますし、また、障害が無くても腎臓でビタミンDの活性化ができなくなると、骨が脆くなり骨折しやすくなります。
腎臓は様々な働きをしていますので、腎臓が悪くなると、高血圧も出てきますし、高血圧が長いあいだ続くと腎臓も悪くなるというう、悪循環に入ると、最終的には、血液の中に廃泄されなくなった毒素が溜まって、尿毒症状態になってしまいます。
この他、尿が作られなくなってくると、むくみが出るようになったり、赤血球を作るホルモンが出なくなるので、貧血がどんどん進んで行きますし、さらに、骨が強くならないということで骨折しやすくなります。
また、抵抗力も弱まり、様々な感染症を起こしやすくなります。
次に、腎臓と高血圧の関係についてです。
高血圧の 原因には、塩分の取り過ぎがあります。
塩分の取り過ぎは、高血圧になると言われていますが、その塩分を調節しているのが腎臓です。
ですが、腎臓にも、人によって塩分を出しやすい腎臓と、出すのが下手な腎臓があることが、最近分かってきました。
アメリカでは、黒人は、白人に比べて、同じような塩分の取り方をしていても、高血圧の出現頻度が数倍あるということが分かっています。
遺伝学的にも、黒人と白人を比べた場合、高血圧に絡んでいる酵素が、黒人では90パーセントほどの人がいます。
それに対して、白人では30パーセントだと言われます。
そこで、日本人はどうかと言うと、70〜80パーセントの人が、その遺伝子を持っていると言われていますから、最近では、塩分の取り方と、遺伝子の両方を考慮しなければなりません。
日本人は、もともと塩分の取り過ぎと言われていますが、それは、日本の風土に関係があるのかも知れません。
日本は、非常に湿気の多い国ですから、食料を保存するのに塩漬けにするのが1番手っ取り早かったのです。
それが、ヨーロッパなどでは空気が乾いていますので、肉などの保存は乾燥して保存しているのです。
ですから、塩分の取り方も当然変わってきます。
特に、東北地方では、最近まで、脳卒中や高血圧が多かったのは、やはり、食塩との関係がずっと言われてきました。
最近の調査によると、高血圧で病院にかかっている人は750万人ほどだと言われていますが、少し古いデータによると、30歳以上の男性で人口の35パーセント、女性で25パーセント、これを合計すると、約2000万人以上の高血圧の患者がいることになります。
しかも、その中の90%以上が本態性高血圧と言われています。
高血圧の中には、腎臓そのものが悪くなる場合と、腎臓の血管が病気となって出現するものや、全身病に伴って出ると言う高血圧もあります。
このようなものを除外したものが本体性高血圧と言うことで、臓器の特殊な障害は、初期の段階では見られないのです。
これが、先程お話ししたように、遺伝的傾向と、塩分の過剰摂取といった、環境的因子の2つから作られると言われています。
一度や二度、大量の塩分をいきなり摂取したからと言って、血圧はすぐには上がりません。
のどが乾いて水を飲んで、塩分を薄めて体外に廃泄することを腎臓がやってくれます。
しかし、繰返し塩分を取り続けていると、血液の中や、血管、あるいは、細胞の変化をきして、その結果、高血圧に繋がると言われています。
血圧が高くなってくると、動脈硬化を初め、血管の変化や細胞の変化が起こってきます。
これは、腎臓にも同じように起きますから、腎臓自身の働きも下がってきます。
腎臓の機能は、1端、低下すると、今度は塩分を摂取しても、塩分を調節すること自身がオーバーワークになってしまい、血圧を制御するホルモンの分泌する機能に異常をきたして、血圧が高くなってくると言う、悪循環を繰り返すようになります。
腎臓の病気には、腎臓が原因で起こるものと、高血圧が原因で起こるものがあります。
腎臓が原因で急激に起こるものとして、急性糸球体腎炎が上げられます。
この病気は、子どもに多く見られる病気で、扁桃腺炎や、咽頭炎などの上気道感染の後、1〜2週間後に発症してくる病気です。
これは、腎臓の急性の炎症を起こすわけですから、水や塩分の廃泄がうまく行かなくなって、顔や手がむくみ、血圧が上がってきます。
そして、血尿が出るといった症状が見られます。
初期には、風邪に似た症状なので、後にむくみが来たら、注意が必要です。
徐々に発祥して、徐々に悪くなって行く病気の代表的なものに、慢性糸球体腎炎があります。
この病気の内、40%程度は、IGA腎症と言って、日本人やアジアの人に多いことが知られています。
これは大人に多く、初期の段階では、症状がありませんから、健康診断での蛋白尿や、血尿、あるいは、高血圧などがチェックされて、初めて分かることが多い病気です。
この病気は、自覚症状がないのが特長です。
それが、病気を重くすることにも繋がっていますし、原因も、免疫学的な異常で起きたり、食べ物や家のダニなどによる、抗原抗体反応で起こると考えられています。
また、腎臓が原因で起こる病気にネフローゼ症候群があります。
これは、1つの病気を言うのではなく、多くの病気を含んでいます。
原因は、腎臓に障害があって、尿の中に蛋白が出てしまい、そのため、血液の中の蛋白が減少してしまう病気です。
ネフローゼ症候群は、このようなことを起こす原因を全部含めた病名です。
こうなると、当然血液の蛋白が減りますので、全身に烈しいむくみが出てくるのが特長で、慢性腎炎だけでなく、糖尿病や、膠原病のような全身性の病気でも出現する病気です。
一方、高血圧が原因の腎臓の病気ですが、代表的なものに本態性高血圧があります。
この病気は多くの患者がいますが、20年、30年と経過して行くと、腎臓そのものが硬くなり、腎硬化症と言われる状態になります。
腎臓が硬くなると、腎臓の細い動脈も硬くなって、血液の流れが悪くなり、腎臓の細胞も障害を起こしてしまい、どんどん萎縮してしまいます。
これも、長期に渡ると、腎不全になって、人工透析が必要になります。
現在、人工透析を受けている患者は、20万人ほどいると言われています。
最後は、腎臓の病気の予防と治療についてです。
腎臓病の原因は、まだ、よく分かっていませんが、一般的に言えることは、免疫力が弱っているときに、免疫が絡んだ腎臓の病気が出てくることが知られています。
腎臓病にならないためには、過労や栄養の偏り、体の抵抗力などに普段から注意をすることが、最も大切です。
最近は、減塩の意識が高まり、1日の平均塩分の摂取量が13グラム程度に減っています。
実際には10グラム程度、理想的な治療においては7〜8グラムです。
最近では、これを守っている人も、少しずつ増えてきているようです。
腎臓の病気は、前にも述べたように、健康診断で見つかることが多いですから、その際には、必ず尿検査を行ないます。
尿検査では、最初に調べるのが尿の中に蛋白が出ているかどうかです。
次に、鮮血反応を調べますが、これは、尿の中に赤血球があるかどうかを調べます。
それから、糖の状態も調べます。
これだけ見ることによって、腎臓に異常があるのか、糖尿病の心配はないかなど、かなりの部分まで分かります。
また、血圧も計りますので、高血圧があるかどうかも分かります。
その結果、1つでも該当するものがあれば要注意ですが、ただ、その程度が重要になります。
正常の人でも、ごく少量の蛋白や赤血球が出ることがありますので、1回の健康診断で出たからと言って、必ずしも腎臓病だということではありません。
とはいえ、腎臓病の初期の段階では、蛋白や血尿が時々出たり、出なかったりすることがありますから、専門の医療機関で詳しく調べてもらい、定期的にチェックすることが大切です。
糖が出ている場合は、当然、糖尿病が疑われますが、腎臓が悪くても、糖が漏れて出ることがありますので、血中の糖も、同時に計って調べなくてはなりません。
そして、蛋白も、糖の場合も、その量が重要になります。
糖尿病の治療をいいかげんにしていると、10年後辺りから腎臓に何らかの異常が出るようになりますし、さらに、10年くらいすると、腎不全になり、最終的には人工透析 と言うことになります。
腎臓は、1端、悪くなると、それを元に戻すことが、なかなか難しい臓器です。
前に述べたような、急性腎炎や、ネフローゼ症候群の1部には、完治するものもありますが、特に、成人で、しかも、慢性に経過する病気は、元に戻すことは、非常に難しいです。
そこで、少しでも進行をおくらせる治療法をするのが一般的で、糖尿病ならば、血糖値を下げる薬とか、高血圧ならば、血圧を下げる薬物療法が行なわれますが、これだけでは不十分で、実際には、食事療法が大切になります。
特に、腎臓の機能が悪くなった場合には、食塩の制限と、蛋白質の制限をすることが大事です。
これは、糖尿病の食事療法と矛盾するところがありますので、その点が難しいです。
1時期、糖尿病の食事療法はカロリーを制限し、糖質を制限するものでした。
これは、蛋白を取って栄養を取りなさいと言うことですから、腎臓の機能が落ちている場合に、蛋白質を摂取することは、腎臓に取っては非常に悪いことをしているのです。
むしろ、腎臓にとっては、カロリーを十分に取らなければならないですから、この点が矛盾してしまいます。
最近は、腎臓の専門家と、糖尿病の専門家で、いろいろ話し合いをして、その妥協点がだんだん見つかってきました。
カロリーには、それほど制限はありませんし、蛋白は、できるだけ制限をして治療をすると言う方法になってきています。
糖尿病から腎臓病に移行するのを予防すること、糖尿病から、すでに腎臓病を併発している人は、少しでも進行を遅らせる意味で、とても大切なことです。