内臓の病気
アルコールと消化管


 アルコールを飲み過ぎると、肝臓を悪くすると思っている人がほとんどだと思います。
アルコールを飲むと、口から、食道を経て、胃、腸の経路で流れていきますが、その流れの1部が肝臓に吸収されて行きます。
その影響を1番受けやすいのは、直接アルコールと接触のある経路です。

 そして、どのくらい強いものを飲んだか、どのくらいの量を飲んだかによって影響も変わってきます。
濃いお酒を飲むと、口の中がやられ、次に喉、食道がやられます。
胃をやられると、気持ちが悪くなり吐くこともあります。
中には、胃壁がやられ吐血することもあります。

 このように、吐血が急性にくる場合は、命に関わることもあります。
なんども吐血を繰り返していると、食道と胃の境に亀裂が起こります。
これを、マロリーワイス症候群と言います。

 また、下痢を起こすこともあり、下血を伴うこともあります。
しかし、これまで述べたようなことは、お酒を三日〜5日も休んでいれば治ってしまいます。
ただし、これが慢性的に起こり続けていると、肝硬変や胃癌になることもあります。

 アルコールは百薬の長と言われていますが、飲み方によっては毒にもなります。
つまり、安全域の狭い薬だとも言えます。
酒を飲みながら、タバコを吸う人も多いですが、これも、深刻な問題です。
それは、口の中の癌、舌癌、喉の癌、咽頭癌、喉頭癌など、それから、食道癌などの心配があります。
タバコと酒を同時に飲むと、飲まない人より40倍以上も上のような癌にかかる可能性が高いと言われています。

 酒の良いところは、消化吸収を助けると言うところにありますが、それは、適量飲酒の場合の話です。
濃いお酒を直接ガブガブ飲むと、やはり、粘膜を障害します。
ウイスキーや、焼酎のように濃い酒は、20パーセント以下に薄めて飲むようにします。
そして、顔が赤くなる人は、急激に沢山飲まないことです。
このような人は、アセトアルデヒドができやすいタイプです。

 アセトアルデヒドは、細胞の遺伝子を傷つけたり、細胞障害を起こしたり、癌を起こしたりするのではないかと言われています。
日本人の約半分は、このタイプです。
 7〜8パーセントの人は、全く酒が飲めないアルコール不対象の人で、後の人は、自分は酒に強いと言う、顔に全然出ない人です。
この場合が、ほとんどアルコール依存症になり、やがて、アルコール性臓器障害をきたし、アルコール性関連精神障害などを起こします。

 酒を飲む時は、油で揚げたものや、蛋白質の濃いものをつまみにして飲むと、その分、吸収が遅くなったり、酒がマイルドに作用するようになります。
このようにして飲んでも、肝臓は、アルコールを最優先して代謝しようと働きます。
その際にできる、フリーラジカルと言う物質が、細胞や遺伝子を傷つけたり、様々な作用が重なって、肝臓に負担がかかり、肝障害が起こります。
これは、短時間で起こるのではなく、何年、数十年の継続によって起こるのです。

 次に、アルコールが、食道、胃、腸など、それぞれに与える影響についてです。
胸が焼けるとか、胸が痛いから、それは心臓だと言って循環器内科に飛び込む人がいます。
その半分ほどは、酒の飲み過ぎによる食道の炎症のことが多いです。
胸の痛みだけだと、やはり、心臓と間違えてしまいます。

 これは、逆流性食道炎と言って、普段は、酒を飲んだり、食事をする時は、胃に入ると食道の下部がグッと閉まります。
ところが、酒を飲み過ぎると、食道下部括約筋が麻痺を起こし閉じなくなってしまい、開いたままになってしまうのです。
そして、胃の出口は閉じたままで、飲んだ物は胃の蠕動によって、食道の方に逆流します。
これを繰り返している内に、食道が炎症を起こしてしまいます。

 このようなことを起こすのは、アルコールの飲み過ぎはもちろんですが、胃酸もかなり悪さをしていることが分かってきました。
この場合、市販されている、「HUブロッカー」や、「ガスター]」などのような胃酸を抑える薬が効果があります。
このようにして、食道炎、胃炎、十二指腸炎、小腸の炎症と移って行きます。
こうなると、下痢を起こすことが多くなります。

 飲んだアルコールの20パーセントほどは、胃で吸収されますが、残りは、腸に行きます。
この時、肝臓に吸収されますが、飲んだ酒が濃い場合は、小腸の粘膜を傷つけます。
その結果、下痢を起こします。

 ビールや、水割りのようなものでも、大量に飲むと大腸に影響があると言われます。
特に、直腸に炎症を起こす、直腸の癌を起こすと言うデータもあります。
ビールを大量に飲む人は、直腸癌に要注意です。
 ここで言う大量とは、1日ビールを3本以上飲むことを言います。
そのような人は、年に1度の健康診断を受けることをお勧めします。

 最後に、アルコールと癌の関係についてです。
疫学的に各国々の癌発生と飲酒との関係を調査すると、アルコールの消費量が増加するにつれて、癌の発生率が増えています。
また、宗教上の理由で、全くアルコールを飲まない国の人々には、癌の発生がほとんど見られないと言うデータもあります。
 アルコールによって、どんな所に癌ができるかですが、濃い酒を飲む人は、舌癌や頚部(喉)の癌、食道癌、それから、胃癌もアルコールと関係があると言われています。
特に、若い女性で、酒を飲む人に胃癌が多いと言われます。
 それから、大腸癌や直腸癌、これは、ビールなどを大量に飲む人に多いと言われ、肝臓癌、膵臓癌、胆嚢癌、変わったところでは、乳癌や肺癌、前立腺癌など、その他の癌も、アルコールと関係があると言う疫学的調査があります。
若い時から濃いお酒を飲んでいる人は、注意が必要です。



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